筑波技術大学保健科学部附属 東西医学統合医療センター 年報 第4号 令和4年度 2022 東西医学統合医療センター 年報 2022 p1 目次 巻頭言 ポストコロナに向けて〜統合医療と新しい知〜 鮎澤 聡 ………… 3 地域の皆様と共に歩む東西医学統合医療センターをめざして 加藤 一夫 ………… 5 寄稿文 電子スピン共鳴による生体フリーラジカル計測の歴史と現況 平山 暁 ………… 9 東西医学統合医療センターと鍼灸学専攻に想う 佐々木 健 ………… 11 理学療法の身体性 佐久間 亨 ………… 13 鍼灸マッサージ分野における視覚障害学生の就職について 東西医学統合医療センターでの臨床実習の意義 近藤 宏 ………… 15 リハビリテーション科開設から12 年 ~立ち上げ作業から学んだこと~ 中村 直子 ………… 17 東西医学統合医療センターの取り組み 今年度の施術部門の取り組み 櫻庭 陽・吉川 一樹 ………… 23 リハビリ部門の取り組み(近況報告) 杉田 洋介・木村 健作 ………… 25 出産・育児休業を通じて感じた鍼灸マッサージ治療の価値と医療センターの使命 成島 朋美 ………… 27 活動報告(診察室) 武笠 瑞枝・會田 順子 ………… 28 COVID-19 による全国・茨城の感染者の推移 ………… 29 東西医学統合医療センターにおける思い 世界に誇る東西医学統合医療センター 石崎 直人 ………… 31 理学療法学専攻からの医療センターへの期待 酒井 俊 ………… 33 卒後臨床教育(研修制度)修了者の寄稿 筑波技術大学・統合医療センターと私との関わり 久下 浩史 ………… 35 医療センターでの卒後研修の経験 能智 悠史 ………… 36 「鍼灸師」ってどんな職業なのだろう? 倉沢 智子 ………… 37 研修生・在籍者の声 小林 敬 ………… 39 p2 村井 史昌 ………… 39 渡井 達也 ………… 40 工藤 綾乃 ………… 41 大山 裕介 ………… 42 川畑亜耶子………… 42 令和4 年度スタッフ一覧 ………… 45 活動報告 令和4 年度活動報告 ………… 49 COMPASS ブラインドサッカー日本代表におけるメディカルサポート 松井 康 ………… 53 頭痛の診療と鍼治療 石山すみれ ………… 55 成長期の体の鍛え方と注意点 中村 直子 ………… 57 1 例に学ぶパーキンソン病:鍼灸と量子まで 湯浅 龍彦 ………… 59 東西医学統合医療センター発表会 資料集 ………… 62 東西医学統合医療センター令和元年度業績 ………… 91 来院患者数 ………… 98 編集後記 木村 健作 ………… 99 p3 巻頭言 ポストコロナに向けて ~統合医療と新しい知~ 東西医学統合医療センター センター長 鮎澤 聡 2022 年度を振り返ってみると、コロナ禍も3 年目に突入し、若干慣れも出て、パンデ ミックの波の中を淡々と対処してきた1 年だったように思います。日常の交流にはいま だ制限が続きましたが、一昨年度と比すれば、その波の谷間に少し羽を伸ばすこともでき ました。診療においても、時折くすぶる発熱にも淡々と対処し、医療センターでは大きな トラブルなく1年が過ぎたことは本当に良かったと思います。感染対策に尽力していただ いた職員の方々に心から御礼を申し上げます。また、そのような中でも、公開講座や多く の受託実習がオンラインを用いて実施されました。これは、コロナ禍といういわば窮地に おいて、我々の役割がむしろ際立ってきたことの表れだと思います。 近々、私達がコロナ禍の間に蓄えてきたことを発信していく時が来るでしょう。そこで ここでは、ポストコロナを見据えつつ、私達の「統合医療」について少し触れてみたいと 思います。 統合医療とは何か、とは、よく問題になることです。私は「統合integration」という 言葉に特にこだわりはありません。また、教育界では、inclusion にintegration より優 った意味合いを持たせるようです。私は、inclusion には、取り込んで囲い込む、という、 取り込む側の存在を感じてしまうのですが、一方、integration は、もともとは、teg(つ まむ)にin という否定の接頭辞がついて、総和というよりも「分割出来ない全体」を意 味しているらしく、それであればむしろ含蓄のある概念のように感じます(おっと、こだ わってしまいました)。 さて、私達の東西医学統合医療センターには、漢方治療や鍼灸手技療法といったいわゆ る代替医療を求めてくる患者さんが多くいらっしゃいます。来院には、西洋医学の治療で 改善せずに鍼灸などの治療を求めてくる方、或いは、病院でどこも悪いところはないと言 われたのだが一向に良くならない、というパターンが多いかと思いますが、それ以外にも、 西洋医学の薬が嫌いで、漢方薬や鍼灸での治療を希望されてくる方や、東洋医学的治療概 念に惹かれてくる方も多くいらっしゃいます。このように動機は様々ですが、いずれにお いても本質的には、近代科学の枠組の限界と関係しているように思います。 科学の基本は、先験的に用意された時空間において、事物を対象化し、客観的に外部観 測し、分析する、ということです。そこにおいては「疑う」ことが基本的な態度です。医 学においても、近代科学を基とし、さらに顕微鏡の発明と相まって病理学を軸に発展して きた歴史を持っています。ですから医学では「悪いもの探し」が得意です。これすなわち 診断ですが、悪者がみつからない場合、今の西洋医学はあまり力を発揮できません。また、 p4 そのような科学的医学において抜け落ちてしまったのが、自然治癒力と健康の問題です。 前者は、科学が自然を自らと切り離して対象化してきたことに起因するのでしょう。後者 は、いわゆる健康診断が悪いものをはじいているだけであって、健康そのものを診断して いないのを考えればわかるかと思います。対象化という手法は物質科学には有用でしたが、 自然や人との様々な関係性において生成維持されていく生命の理解には不充分でした。そ の限界に起因する問題は医学のみならず様々なところで生じていると思います。今回のパ ンデミックで、私達はそれに気づき、また越えていかなくてはなりません。 ところで私達の統合医療センターにも、診療部門、リハビリテーション部門、そして鍼 灸手技療法の施術部門がありますが、これらが統合するとはどういうことなのでしょう。 ここで、注意すべき点が二つあります。一つは、行われている治療そのものは「技術」で あって、必ずしもそこに東とか西とかの壁をたてる必要はない、ということです。もう一 つは、東洋医学も科学的側面を持つ、ということです。分析し、治療を行うというそのプ ロセスにおいては西洋医学と一緒であって、やはりその枠組の中にいれば自ずと限界をつ くってしまいます。 私達に求められているのは、これまで西洋医学や東洋医学で培われてきた智恵をふまえ つつ、従来の西洋医学と東洋医学を包含できるような近代科学を越えた「新しい知」を創 造することだと考えています。新たな医療哲学の基では、これまでの技術を活用すること ができます。たとえば、リハビリテーションも従来の科学的視点から少し変えて徒手的に 触れ合うことにその本質をおけば、これまでとは異なった理解や技術が得られるでしょう。 自然治癒力を上げるための手技なんていうのもできるのかも知れません。東とか西とか言 っているうちはただの寄せ集めであって、統合には遠く及びません。 新しい知ではこれまでの科学で捉えにくかった「生成」が鍵になると思われます。医療 も「悪いもの探し」から「健康を共に創る」ことに視点が移り、そこでは「疑う知」から 「愛の知」への変更が要請されるでしょう。疑うことで発見はあっても生成は得られませ ん。また、本来、人と人が触れ合いながら行なわれる鍼灸手技治療は本質的に見直され、 健康生成のリーダーになっていくことが期待されます。 また、この新しい知は、これからの共生社会の構築とも関係します。既存の社会におい て共に生きるようにすることではなく、新しい社会そのものを共に創り出していくこと、 これが本来の共生ではないでしょうか。 我々の施設が、統合医療と視覚障害者教育の両方に携わっているのが偶然なのか、それ とも必然なのか、良くわかりません。しかしながら、統合医療の展開と共生社会の構築は、 同じ土俵上にあることは確かだと思います。ポストコロナにおいて、医療センターの営み を通して創られていく「新しい知」を世の中に発信していく、また人と直接に接している 医療人としてその使命を「自覚」すること、これらが私達にとって大切なのだと思ってい ます。 愛に満ち満ちた医療センターを目指して頑張りましょう! p5 巻頭言 地域の皆様と共に歩む東西医学統合医療センターをめざして 筑波技術大学 保健科学部長 加藤 一夫 平素より、東西医学統合医療センターの運営にご協力を賜りして、心より御礼申し上 げます。この度、診療・施術のご報告として「医療センター年報第4 号」を発刊する運 びとなりました。ここに皆様にお届けいたします。 筑波技術大学東西医学統合医療センター紀要の新たな巻を皆さまにご紹介することを 大変嬉しく思います。この巻頭言を通じて、私たちは皆様と共に東西医学統合医療センタ ーの使命と目標についての考えを共有し、治療の技術の発展に向けた取り組みを紹介する 機会となれば幸いです。東西医学統合医療センターは、西洋医学と東洋医学の両方の知識 と技術を結集し、総合的な医療の提供と研究を進めていくことを使命としています。私た ちは、現代医学の進歩を活かしつつ、東洋医学の叡智と伝統的な治療法を融合させること で、より効果的で質の高い医療を追求しています。 本センターは、卓越した研究者や臨床医師、東洋医学の専門家が集まり、さまざまな疾 患や症状に対する研究を推進しています。私たちは、高度な医療技術や診断方法を用いな がらも、患者の個別の状態や生活背景を考慮し、心と体の両面からのケアを提供すること に力を注いでいます。 本学保健科学部では、視覚に障害のある学生が、鍼灸・あん摩マッサージ指圧師と理学 療法士の臨床能力を高めるために研鑽を積んでいます。近隣の皆様には、鍼灸学の学生が ボランティア実習のご協力をお願いしています。医療センターのスタッフとともに、心か ら感謝申し上げます。 また、医療センターは本学大学院修士課程の学生の研究活動にも熱心に関与しています。 地域の患者様の多大なご協力のおかげで、学生たちは臨床能力を向上させることができて います。さらに、他の教育機関からの研修生も日々医療技術を学ぶために努力しています。 研修生には視覚に障害のある方だけでなく、鍼灸・あん摩マッサージ指圧の専門的な技術 に興味を持つ健常者の方も所属しています。私たちは、全国の鍼灸師やマッサージ師にリ スキリング教育(学び直しの場)を提供する教育機関としても役割を果たしているところ です。これも、医療センターを利用してくださる患者様方のご支援とご協力のおかげであ p6 り、心から感謝申し上げます。 改めて、地域の皆様に深く感謝の意を表し、今後もより良い医療と教育を提供するため に努力し続けることをお約束いたします。 新型コロナ感染症の影響により、一時的に感染者数が減少する兆しも見られました。ま た、新たな変異株の出現により感染者数の推移は不安定な状態が続いています。しかしな がら、医療センターはこれまでの経験を活かし、通常の診療体制を回復させることができ ました。新型コロナ感染症が始まった初期には患者数が減少したものの、現在ではほぼ回 復している状況です。これも地域の皆様のご支援と協力のおかげと深く感謝しています。 私たちは、この紀要を通じて、総合的な医療の可能性を広げるための情報の共有を目指 しています。異なる医療アプローチや伝統的な鍼灸手技療法を尊重しながら、より包括的 な医療の枠組みを探求し、永く持続可能な医療社会の実現に向けて日々研鑽をつみ、前に 進んでいくことをお約束いたします。今後とも地域の患者様はもとより、全国の患者様の、 「疾病の克服と健康の創生を通じての社会貢献」を目指して診療・施術を行って参ります。 これからも筑波技術大学保健科学部付属東西医学統合医療センターをどうぞ宜しくお願い 申し上げます。 p7 東棟エントランスを臨む p8 ◆ 寄稿文 ◆ p9 電子スピン共鳴による生体フリーラジカル計測の歴史と現況 つくば平山クリニック院長 筑波技術大学名誉教授 平山 暁 筆者は長年ESR(電子スピン共鳴: electron spin resonance)を測定手段とし,生体内フ リーラジカル動態の解析による酸化ストレス研究を行ってきた.本稿では,ESR による 生体フリーラジカル計測のヒストリーを概述する. ESR とは ESR ( 電子スピン共鳴: electron spin resonance , 電子常磁性共鳴: electron paramagnetic resonance (EPR)とほぼ同義)は磁気共鳴現象の一つで,1944 年に旧ソ連 カザン大学のZavoisky によって発見された.この時期は磁気共鳴現象として広く知られ る核磁気共鳴法(NMR)とほぼ同時期である.ESR 計測法は原子核や電子の自転運動にお けるスピンを観測する磁気共鳴分光法の一つである.その用途は幅広いが,医学生物学分 野では主として生命現象に影響を与えるような不対電子を有する活性分子,すなわちフリ ーラジカルとその関連反応の検出に用いられる.医学生物学領域でのESR 応用はin vitro/ex vivo とin vivo での計測がある.前者は主としてX-band ESR が用いられる.後 者はL-band ESR が用いられ,一部では画像化(NMR におけるMRI に相当)も行われる. ESR による生体計測の対象 酸化ストレス解析におけるESR による生体計測としては,直接計測法,スピントラッ プ法,スピンプローブ法,ESR オキシメトリー,レドックスプローブ法がある. 直接計測法 常磁性を有する比較的安定な生体内ラジカル種(特に金属イオン配合体)をESR で 直接測定する. スピントラップ法 (Spin Trap) スピントラップ剤と呼ばれる薬剤と不安定なラジカル種(·OH やO2 · -など)を反応 させ、比較的安定なラジカル種を生成させてESR で測定する(後述). スピンプローブ法 (Spin Probe) 比較的安定なラジカル種(ニトロキシルラジカルなど)で標識した分子をある環境に 置いた時,そのESR スペクトル線形を解析して分子の動きを知る. p10 ESR 酸素濃度測定 (ESR Oxymetry/Oximetry) ラジカル周囲の酸素濃度によってESR 信号の線幅が変化することから、安定なラジ カル種をプローブとして、そのESR 信号の線幅を測定して試料中の酸素濃度を測定 する. レドックスプローブ法 (Redox Probe) 比較的安定なラジカル種(ニトロキシルラジカルなど)が試料中の抗酸化剤や動物体 内の抗酸化酵素などで還元されて、ESR スペクトルが消失する速度や量を解析し、 試料内の酸化還元状態を知る(後述). ESR スピントラップ法による生体酸化ストレス解析 フリーラジカル関連反応におけるESR の最大のメリットは,酸化ストレス関連反応に おける特定のラジカル種を検出,あるいはその特異的反応過程を同定できることにある. この目的に用いられるのがESR スピントラップ法である.スピントラップ法は1960 年 代に米国のJanzen らにより開発された.この時期は,Fridovich らによるスーパーオキ シド不均化酵素(superoxide dismutase: SOD)の発見と同時期であり,生体内フリーラジ カル動態の解析に大きな注目が集まった. その後1970 年代になりスピントラップ剤DMPO(5,5-Dimethyl-1-pyrroline N-Oxide) が開発され,医学生物学領域での汎用性が高まった.この方法ではスピントラップ剤(主 としてニトロソ・ニトロン化合物)と短寿命フリーラジカルの結合により長寿命なラジカ ル体を産生させ,これをESR にて検出する.例えば,ヒドロキシラジカル(.OH)の生体 内寿命はナノ秒単位であるが,DMPO-.OH アダクトの寿命は秒〜分単位となり,現実的 に計測可能となる.さらに生成されるスピンアダクトは,超微細結合定数(hfcc)の差によ りラジカル種毎に特異的な波形を呈するため,生成されるラジカル種を分子レベルで特定 できることとなり,これがESR の大きなアドバンテージである.更にアダクト生成量か ら反応速度論的解析を行うことが可能となる.これらの進歩は,1970 年代後半から細胞 内NADPH oxidase 機構の解析,好中球のoxidative burst による殺菌機構と免疫学的機 序の解析など,現在の医学生物学の根幹をなす基本的な生体防御・生命維持機構の発見に 大きく寄与した.その結果を踏まえ,1985 年にSies は「酸化ストレス(oxidative stress)」 という概念を初めて提唱している. In vivo ESR による生体内酸化ストレス・レドックス解析 In vivo ESR 測定は低侵襲的でありかつ酸化ストレス関連反応に対する検出力は比較的 高いため有用である.しかし一般的なX-band では,使用するマイクロ波(9GHz 帯)が水 により誘電損失を呈するため,生体応用が困難であるという大きな欠点を有する.このた p11 めL-band(1GHz)での測定が行われるが,必然的に感度の低下を招くため,現在ではin vivo 計測がラット程度,画像化はマウス程度の大きさに限られる. この技術のマイルストーンとして,Yokoyama, Yoshimura らはリポポリサッカライド 投与敗血症マウス体内の一酸化窒素(NO: nitric oxide)の映像化を1996 年に報告している (Nat Biotechnol. 1996 Aug;14(8):992-4.).これは生体内フリーラジカルを直接検出し たもので,その意義は非常に高い.しかし,上述の理由でこのような直接検出は技術的に 困難が大きく,現在のin vivo ESR による酸化ストレス解析はレドックスプローブ法によ るものが多い.筆者は生体内抗酸化応答の中心的調節機構である,転写因子Nrf2 のノッ クアウトマウスにおいて,酸化ストレス進展と自己免疫性腎炎発症過程の解析にレドック スプローブ法を応用し報告した(Free Radical Biology & Medicine, Vol. 34, No. 10, pp. 1236–1242, 2003).近年では位置情報の精度を上げるためMRI とESR イメージングを 併用する,あるいは核スピンと電子スピンの二重共鳴(Overhauser 効果)を併用したMRI などが開発されている(Utsumi H et al. Free Radic Biol Med 89: 1097–1104, 2015). 東西医学統合医療センターと鍼灸学専攻に想う 保健科学部保健学科鍼灸学専攻 佐々木 健 この紙面において私は本学に在職した25 年の臨床と教育を振り返りつつあれやこれや と語るように書き記そうと考えました。しかしどれもこれも書き残すほどのものではあり ません。それでも何か無いかと探すなか本年6 月の仙台で実施した学生募集行事で高校 生へ向けて語った内容のメモがありましたのでそれを基に記し以下に供覧します。 ―――高校生に向けて《筑波技術大学へどうぞ》――― 私は筑波技術大学の鍼灸学専攻教員で専門は鍼灸マッサージです。私は弱視でここ宮城 県立視覚支援学校(以下、宮盲)の卒業生です。母校でのお話をとても楽しみにしてきま した。 私はよく盲学校専攻科理療科と本学鍼灸学専攻の違いを問われます。それには「本学に 東西医学統合医療センターがある事」と答えます。当センターは医師や理学療法士などセ ンター険医療サービスと共に鍼灸マッサージ施術を受ける事ができます。統合医療の草分 け的存在です。そしてつくば市の地域医療機関でありつつ全国から集った学生や研修生へ 臨床教育を行う役割を果たしています。振り返えれば私は宮盲生の頃に恩師で全盲の渡辺 一夫先生の薦めで武山耳鼻咽喉科医院とその併設治療院を訪れて以来、幸運にも医師と連 携できる医療機関でのみ鍼灸と按摩を施術する機会に恵まれてきました。今想えば宮盲と p12 鍼灸マッサージ師の渡辺一夫先生、そして医師の武山貢次先生から実は東西医学へ繋がる オリエンテーションを受けていたようです。東西医学とは東洋医学と西洋医学を結合する 概念ですが、若い皆さんはこの医学を受け継ぐ存在です。ですから今日は盲学校発の東西 交流について少しお話しをします。 さて先ほど戴いた最新(2023)の宮盲学校要覧のページを開くと沿革に「明治36 年 (1903)にキリスト教会内に盲人日曜学校として開設」とあります。このように盲教育 は西洋の教育がモデルです。そしてこの明治30 年代は盲教育にとっての曙の時でした。 この時、英国に好本督(よしもとただす)という人物がいまして「英国の盲人」という文 をしたため小冊子を作りそれを日本の盲学校に無償で配布などしていました。この活動の 背景にはご自身が網膜色素変性症による弱視だった事があります。そんな好本先生はオッ クスフォード大学の出身です。同じ頃、英国には夏目漱石もいましたが精神的に病んで帰 国しています。日本人にとっては英国にいるだけでも驚きの時代です。小冊子「英国の盲 人」はその先進的内容ゆえに禁書扱いをする者もいたようですが、未来志向的な内容を、 日本点字を考案した石川倉次先生がいた盲学校(現在の筑波大学附属視覚支援学校、以下、 附属盲)は真摯に受けとめました。 オックスフォード大学には好本先生が最も影響を受けた医師のウィリアム・オスラー先 生がいました。好本先生にとっては人生の師です。オスラー先生の専門は内科学で欧米で は臨床医学や臨床教育の父と言われています。日本でも日本オスラー協会という団体があ り聖路加看護大学の(故)日野原重明先生が会長を務めていた事でも有名です。オスラー 先生の内科書第1版は西洋で初めて東洋の鍼を坐骨神経痛に効く治療法として紹介してい ます。もしかしたら好本先生がオスラー先生へ鍼の事を伝え、現附属盲へは鍼マッサージ 教育の基礎を築いた全盲の教員、奥村三策先生らに西洋の事を伝えていたのかもしれませ ん。だとしたら盲学校の鍼按摩教育にはその黎明期からオスラー先生の心や臨床への精神 が込められていたのでは、と妄想を膨らませてしまいます。残念ながらこの妄想を裏付け る記録にはまだ出会っていません。しかしその逆はあります。好本先生は日本のマッサー ジを「日本国の盲人」事情として英国に伝えています。好本先生の著書に「ロンドンの盲 人按摩院設立の委員会にたびたび引っ張り出された」とあります。好本先生の東奔西走ぶ りが垣間見られます。このように明治時代の東西交流は日本による一方的な西洋受容では なく相互交流であり、盲教育においては日本へ点字が、西洋へ按摩がそれぞれ触れる「文 字」と「医術」として伝えられていたのです。 盲学校自体は西洋の学校がモデルですから、鍼按摩教育も解剖学や生理学などの西洋医 学が基礎になるのは当然のなり行きです。このなり行きは東洋の鍼按摩に西洋の自然科学 的な認識をもたらし、数千年の歴史を持つ東洋思想の認識と併存させるという「東西もつ れ」の並立状態を産み出しました。表面的には東西並立のカリキュラム編成へと繋がって います。盲学校はその舞台の一つですが、それは鍼按摩の盲教育を江戸時代に全盲の杉山 和一が既に確立していた事により実現しました。その後、昭和時代に入り第二次世界大戦 p13 後にGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が鍼灸按摩に科学的説明を求めた事は、この 流れに拍車を掛けました。この東西交流は筑波技術大学が目指す東西医学に引き継がれて いくと私は考えています。東西交流の歴史を覗くとそれは本学の使命なのだとの想いを改 めて強く持ちます。 皆さんはこの流れを継承する者です。今後の課題は東西交流から更に進んで二律並立の 枠組みを超克する事です。本学保健学科には鍼灸と理学療法の専攻があります。私は鍼灸 学専攻所属だからと言って鍼灸の進路選択だけを推す事はしません。大事な事は皆さんの 持ち味が活きる進路選択をする事です。そして来るべき実相の医療文化と学術を構築して いくことです。世界は混迷していますが新時代への扉が光明の兆しとして感じられます。 この光明を信じ祈り皆様との出会いを願っています。 (気持ちとしてこの拙文を私の退職の言葉とします) 理学療法の身体性 保健科学部保健学科理学療法学専攻 佐久間 亨 運動障害を対象とする理学療法において‘何故このような動作になるのか’という疑問 を究明する上で分析的手法は極めて有効である。しかし、そこから発展して‘どうすれば より良く動けるのか’といった問題解決の段階になると定量的な分析手法のみでは限界が ある。そこでは理学療法士と患者との身体的コミュニケーションが必要となる。本稿では、 筆者の臨床体験を踏まえながら身体性を基盤とした理学療法の実践について述べ、リハビ リテーション科研修生への指導の抱負としたい。 ・データは考えるための材料 ある現象をある条件下で数値に置き換える手法を定量的分析と呼ぶ。例えば歩行分析で は連続的な身体運動を速度、歩幅、歩効率などの固定化された変数に置き換える。いわゆ る科学的根拠に基づいた医療では定量的分析が必須と言われるが、理学療法が対象とする 人の身体運動は時間軸をもつ複雑な系であるので、定量化できない事象の方が多いのも事 実である。また、外部からの働きかけや本人の意識でもって特定の筋の力発揮や関節運動 のみを限局して変容させることも普通出来ない。データは考えるための材料であって、理 学療法の実践では分析結果を患者の問題解決に活かす工夫が求められる。 p14 ・客観と主観を繋ぐ身体 そこで有効になるのが理学療法における身体性である。理学療法には治療者と患者との 身体的な接触のうえに展開される場面が存在し、そこでは両者が影響を及ぼし合い、互い に独立していない。以下では脳卒中片麻痺患者の理学療法を例に考える。 片麻痺の運動障害を構造的に捉えて理解しようとすると、この障害は中枢神経損傷由来 の筋緊張異常、随意運動障害および感覚障害に半側空間無視などの高次脳機能障害が加わ り、さらに身体不活動に伴う関節拘縮、筋萎縮、心肺機能低下などで修飾された状態であ る。このように分類・整理することで、それぞれの障害因子を一応、客観的に測定できる。 しかしながら、はたしてこのような理解の仕方は、障害を抱える患者本人の主観的世界に どれほど近づいているのであろうか。 理学療法の実践では患者本人の視点に立った障害像を推測する必要があろう。すなわち 自由に体が動かなければ正しく外界を知覚することは出来ないだろうし、知覚を失った身 体では自分と外界との境界が曖昧になり自身の体重を支える拠り所を失う。これは心理的 な緊張も高めるだろう。実際、重度に感覚が障害された片麻痺患者では、ベッド上に寝て いるにも関わらず、あたかも体が床に落下してしまわぬよう手でベッド柵を握りしめてい ることがある。 患者本人の主観的世界へと近づこうとするならば、分析者と被分析者の関係を離れ、両 者は共同して動作を遂行する必要がある。例えば、歩行練習では理学療法士は患者を‘歩 かせる’のではなく‘一緒に歩く’ことで経験を共有するのである。ともに歩き、互いの リズムを感じ合う過程を通じて患者を望ましい運動パターンへと誘導する。言語的メッセ ージでは伝わりにくい‘動きのコツ’を身体的メッセージとして伝える工夫である。 ・スリングと体の揺らぎ リハビリテーション室の天井に設置されているレッドコード(スリングとも呼ぶ)を使 って患者の身体をハンモックの様に吊るし上げると、筋肉への負荷が軽減され筋の緊張が 緩む(写真)。痙性や強い痛みのある患者ではスリングしたのみでは筋緊張が緩まないこ とが多いので、そのような時は外部からわずかな揺れを加えると筋の緊張が緩み関節可動 域を拡大できる。 外部からの振動刺激と患者の体の揺れが一致するとその揺れは全身へと波及する。物体 の固有振動数は質量と剛性で決まるが、人体の場合、身体分節ごとの質量は一定なものの 剛性は筋緊張の状態で常に変動している。理学療法士は手の感触を頼りに患者の筋緊張の 程度を測り適切な振動刺激を加える。筋が硬ければ刺激の周期は短く、緩めば周期を長く する。理学療法士と患者との呼吸が合わず刺激と揺れが不一致になると患者は不快感を覚 え揺れは減衰する。理学療法士はスリングを使って患者をただ単に‘吊るす’‘揺らす’ のではなく、患者からの身体的な反応を見抜く感性が求められる。 p15 ・感性を磨く 以上の実践方法は、理学療法士と患者との身体性の繋がりが基盤になっている。研修生に は感性を磨くため日頃から自分自身の体の動きへの気づき(動感)を持つよう促している。 動感の内省において視覚障害はハンディキャップではなく、むしろ感受性を高めるかもし れない。身体性は言葉にすることのできない知識(暗黙知)である。教科書や論文では学 べず、またテクノロジーに置き換えることも出来ない知識であるからこそ、臨床研修で取 り組む価値があろう。 写真:研修生同士の練習風景。頭部と両側の上肢をスリングしている。頸肩部筋群の緊張 が緩むと頭部の揺れは上肢やつま先にまで波及する。 鍼灸マッサージ分野における視覚障害学生の就職について 東西医学統合医療センターでの臨床実習の意義 保健科学部保健学科鍼灸学専攻 近藤 宏 あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう業は、古来より視覚障害者の職業的自立をするた めの代表的な職業と言える。厚生労働省から発表されている視覚障害者の職業紹介状況を みると、あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう業は、職業別就職件数の約半数を占めてい る。 視覚障害を有する鍼灸学専攻の学生は、卒業後、あん摩マッサージ指圧師・はり師・き ゅう師の免許を活かし、地域医療、介護分野、企業で活躍している。ここでは代表的な職 種について紹介する。 p16 在宅訪問マッサージ施術所での施術者:超高齢者社会の急速な進展や国民の価値観の変 化が相まって、在宅医療に対するニーズが極めて大きくなっている。在宅医療サービスと してマッサージ施術は、療養費の支給が認められて筋麻痺・筋萎縮・関節拘縮等、医療上 マッサージを必要とする症例が療養費の支給対象となっている。卒業生は、地元の在宅訪 問マッサージ施術所などに就職し、療養費を用いた在宅訪問マッサージを行ない、地域医 療の担い手として活躍している。 機能訓練指導員:あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師は機能訓練指導員として 認められる資格の一つである。利用者一人ひとりの心身の状態に合わせて機能訓練を行い、 できる限り自分で身の回りのことができるように支援していく役割を担っている。卒業生 は主にデイサービスや特別養護老人ホームに勤め、介護分野で活躍している。 ヘルスキーパー:ヘルスキーパーとは、企業などに雇用されて、社員・従業員の健康管 理に当たる、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師のことである。一般に、視覚障 害者の専門職として普及している。マッサージなどの施術を通して会社員の健康管理・疲 労回復・疾病の予防に関するスペシャリストとして会社の活力を高めることに貢献してい る。近年、国が推進する障害者雇用政策と相まって、視覚障害を有するヘルスキーパーを 雇用する企業が増加傾向にある。 鍼灸学専攻の学生にとって東西医学統合医療センター(以下、医療センター)での臨床 実習は、様々な症状や疾患を有する患者をみることできる大変貴重な機会となっている。 医療センターは、東洋医学(主に漢方と鍼灸)と西洋医学を統合した医療を提供する国 立大学の診療施設として、1992 年に設立されて以降、地域医療に貢献している。2015 年 にはあん摩マッサージ指圧外来の設置やリハビリテーションの充実など、臨床・教育・研 究のすべての面における環境を充実・強化している。医療センターは、医師による質の高 い診療と理学療法士によるリハビリテーション、さらに、鍼灸・あんま・マッサージ・指 圧によって地域住民の健康保持増進に役立っている。患者の半数近くが鍼灸・あんま・マ ッサージ・指圧を受療している。 一方で、教育や研究の機能も有している。鍼灸学専攻の学生は臨床実習において、医療 センターで鍼灸・あんま・マッサージの施術を学ぶだけではなく、医師の診察や各種医療 検査機器の実際を学ぶことができる。また、学生は、医療センターで学んだ知識技術を活 かし、学生専用の臨床室において近隣の地域住民の方に対して鍼灸・あんま・マッサージ の施術を実践することができる。このような臨床実習はあん摩マッサージ指圧師、はり師、 きゅう師養成課程を有する学校・施設の中で、他にはない独自のシステムを有しており、 あん摩マッサージ指圧・はり・きゅうを学ぶ者にとって大変貴重な取り組みであると言え る。 医療センターに来院する患者の愁訴は、国民病とも言われる腰痛・肩こりなどの運動器 疾患をはじめ、関節リウマチやパーキンソン病など難病を患っている患者も少なくない。 特に、筋麻痺・筋萎縮・関節拘縮を有する患者を施術することの多い在宅訪問マッサージ p17 施術所の施術者や機能訓練指導員を目指す学生にとって、医療センターでの経験は、臨床 現場において、非常に役立つものになるだろう。また、ヘルスキーパーを目指す学生にお いても、企業が推進する健康経営に関わるために必要な知識や意識を医療センターで身に つけることができることは大変意義深いものになろう。 リハビリテーション科開設から12 年 ~立ち上げ作業から学んだこと~ 保健科学部保健学科理学療法学専攻 中村 直子 東西医学統合医療センターのリハビリテーション科(以下:リハ科)は2011 年4 月1 日に開設されました。ちょうど3 週間前の2011 年3 月11 日に東日本大震災があり、余 震が続く非常時での開設となったため、本当に患者さんが来てくれるのかと心配の門出と なったことを鮮明に覚えています。あれから10 年以上が経過し、開設当時のことを知る 理学療法学専攻教員は私を含め2 名のみとなりました。今思えば、新しい診療科を開設 するという貴重な機会に関わることで、多くのことを学んだと思っております。新しいこ とを始める際には、予期せぬ課題が次々と起こります。そんな昔話から今後に生かせるヒ ントがあるのではないかと思い、あくまで個人の視点からの記憶・記録ではありますが、 ここに寄稿させて頂きます。 リハ科開設当初、書類上のリハ科専任理学療法士(以下:PT)は理学療法学専攻(以 下PT 専攻)から異動となった私:中村(当時は助教・医療センター所属)1人のみでし た。また当時は保健科学部のプロジェクト特任研究員であった佐久間先生(保健科学部所 属)がプロジェクト事業としてリハ科の専任業務を行い、この2 名を常勤スタッフとし て配置し、PT 専攻の教員が非常勤PT としてサポートする形でPT 業務を行うことにな りました。実質、この若年者2 人で新規事業の立ち上げの所々の課題に対峙していくこ ととなります。突然このポジションに配置された2 人が遭遇していった課題の一部を挙 げてみます。 ①箱と人は準備した、予算はない 医療センター開設後20 年間、当院にはリハ科がありませんでした。開学当初より学部 にはPT 専攻があり、医療センターにリハ科を開設することは大学としての懸案事項であ p18 ったようです。2010 年に保健科学部のプロジェクト事業(文部科学省特別経費:視覚に 障害をもつ医療系学生のための教育高度化改善事業)の一環として、PT 専攻からはリハ 科の開設を含めた予算申請をし、プロジェクト予算が割り当てられたことから、具体的に 開設の準備をすることが決まったようです。このため、開設準備にかかる人件費や改装費 用等は計画書に添ってプロジェクト予算から支出されました。しかし計画にない出費や開 設後の諸経費は医療センターの予算から支出することになりました。 2011 年4月からのリハ科開設後、多くの物品・消耗品が必要なことが分かってきまし た。消毒用の薬品やペーパー類、枕や枕カバー、理学療法のための重錘バンドや鉄アレイ、 バランスボードなど、全く何も無い状態からリハ室を立ち上げるため、必要物品を数え上 げたらキリがありませんでした。まず、医療センターの事務に購入希望の相談をしました が、今年のリハ科の予算はないと断られました。リハ科が開設されたものの医療センター の予算が増えたわけではなく、予算配分計画にもリハ科の配分額はなく、初年度は何も買 えないことが分かりました。プロジェクト予算からの購入も相談しましたが、医療センタ ーの消耗品は医療センターの経費から出すよう言われました。この現状が分かった時はさ すがに呆然としましたが、佐久間先生と2 人で相談しながら、優先度の高い順に解決方 法を模索しました。 消毒用品は外来(看護)から分けてもらいました。PT 専攻の授業用物品から借りられ そうなものは全て少しずつ借用しました。鉄アレイ、重錘バンド、バランスボード、血圧 計、枕は極力早めにリハ科専用の物を買ってもらうことを条件に借用しました。超音波治 療器はPT 専攻の物を借りましたが、消耗品のジェルは検査室から「古い物だけど」とこ っそり分けてもらいました。ボールやバランスパッドなどPT 専攻になかったトレーニン グ用品の一部は2 人の私費で各自購入しました。事務用品は事務室の中古品を分けても らい、使い捨て枕カバーだけは、必要予算だからと交渉し、医療センターの事務で購入し てもらいました。電子カルテを含む多くの物品、機器類は来年以降の様々な予算計画に載 せてもらうよう、優先順にリストアップし、多くの部署に相談しました。個人的には、パ ルスオキシメーターが準備できず、運動中の肺疾患の患者さんのSpO2 が心配でヒヤヒヤ しながら毎回リハを行っていたこと、今でもリスク管理として怖かったことを思いだしま す。 新規に事業を立ち上げる際は、同じような状況になることが多いようです。他校の新設 学部の教員となった私の知人は、ボールペン1本購入できない、とにかく大変だとぼやい ていました。リハ科開設から5 年後、本学医療センターに西棟が建設された後も、空 調・照明などの光熱・維持費は事前に見積もりされておらず、財政を逼迫させたと伺いま した。新規事業立ち上げの際は、まず立ち上げることが目標となり、それだけでも多大な 労力と人員を要します。それ以降の運用計画まで具体的にイメージする余裕はないのが当 然のことと思います。 以上の経験より2 つのことを学びました。1つめは、私たちが開設直後より多くの方 p19 に助けを求めたからこそ、協力してくれる人を早く見つけることができ、新設部門が病院 業務にどのように関わっていけばよいかの道筋を整えていく作業に繋がったことです。予 算なしというピンチが最大のチャンスにつながることを実感しました。2 つめは、新しい ことを立ち上げる際は、立ち上げ準備を中心に行う人員と同時に、開設後の運営を中心に 準備する人員も早期から配置しておく必要があると思いました。立ち上げの際、収入見込 額や人件費などの大きな予算は数年先まで見積もっていることが多いと思いますが、その 他、消耗品・物品・光熱費など細かい部分の見積もりや運用のためのシステム作りなどは 手薄になりやすいと思います。1 年以上前より、次年度事業・予算計画に組み込んでおか なければ、新設の1 年間は予算ゼロによる課題が山積することとなります。 ②授業のない日のみ、教室を間借り 開設当初は外来理学療法のみを行う専用のリハ室の確保は難しく、医療センターの2階 にある保健学科の教室(手技・物理療法室)を授業のない火・木のみ間借りして、週2日 のみのリハ科スタートとなりました。開設前に患者様の転倒対策のため、ややクッション 性のある柔らかい床への張り替え工事が施工されました。当時この部屋は鍼灸学専攻と理 学療法学専攻が合同で使用する教室だったため、物理療法用の牽引や温熱機器類、マッサ ージ用ベッドの他、鍼灸学専攻の講義で用いる経穴等身大模型などがありました。これら を部屋の端に配置し、残りのスペースに治療ベッドや椅子を置き、授業でも臨床でも使え るスペースにする必要がありました。手狭なため車椅子用の通路確保は困難でした。また 仕切りのないオープンスペースのため、ベッドで足上げ体操を指導中に、「周りの患者か ら見えている場所で股を広げるのは恥ずかしい」と女性患者様からクレームが出たことも ありました。その他、授業で使用する部屋に患者様のカルテを保管する訳にはいかず、物 療室の奥の施錠のできる2畳ほどの物置スペースを掃除してスタッフ控え室とし、カルテ 記載用の机と棚を設置しました。窓のない密閉空間だったため、早々にエアコンを設置し てもらえたことは大変助かりました。2011 年~2014 年の4 年間、この間借り部屋で週2 ~3 日体制のリハ科運営が続きました。 私自身は2011 年度の1 年間のみリハ科専任スタッフとなったのちPT 専攻の所属に戻 り、その後は非常勤PT としてリハ科に関わることになりましたが、以降もリハ科の成長 を支える一員となれたことを誇らしく思っております。特に2015 年に多くの方のご尽力 により西棟が増設され、やっと念願の外来リハ専用のリハ室が設置されることになり、毎 日リハ業務が行えるようになりました。環境が整うことに合わせ、研修生や臨床実習生の 受入れも本格的に開始されました。開設当初は運動器Ⅲ・脳血管Ⅲのみ取得していた施設 基準が現在は運動器Ⅰ・脳血管Ⅲ・心大血管Ⅰ・呼吸器Ⅰとなり、様々な疾患の方へ、よ り充実した理学療法が提供できるようになりました。 ここでリハ科が開設された利点を簡単にまとめますと、学生教育(学科専攻)の面では p20 ①授業としての効果:実際の臨床現場で患者様と接しながらの授業実施が可能となりまし た。②臨床実習についての効果:理学療法学専攻では2~4年生の間に合計5回の臨床実 習があり、これらの多くをリハ科で実施できるようになりました。③卒後教育・研修制度 としての効果:卒後、理学療法士免許を取得すれば2年間の研修制度を利用し視覚障害に 配慮した環境でPT 実務の経験を積むことができるようになりました。また本学の大学院 や他学科専攻へ編入・入学したPT 免許所持者はリハ科でのアルバイトが可能となり、学 業と実務研鑽の両立がしやすくなりました。④研究としての効果:患者様やリハ科の測定 機器を使用した研究が可能となりました。以上の中でも特に臨床実習についての貢献度は 非常に高いと感じております。これまで、視覚障害や心身面の理由により学外施設での臨 床実習に環境適応できず、成績が不可・留年となった学生が存在していました。しかしリ ハ科設立により、視覚障害学生の安全に配慮し、学習により適した環境作りが可能となり ました。リハ科での臨床実習・追加実習・補講などが実習期間に限定されず実施可能とな ったことにより、より公平な判断や、体調回復後の再実習設定が可能となりました。最近 では新型コロナによる緊急事態宣言の期間においても、対面での臨床実習を全て実施し、 学生を卒業させることができたことは、本学にリハ科が存在したからこそ成し得たことと 考えております。次に、リハ科が開設された利点を医療センターの面から考えますと、① 受診者・患者様に提供できるサービスの幅・選択肢が増えたこと。②収益の面で医療セン ターに貢献していること。この2点になるかと思います。特に①については、東洋医学 (鍼・灸・按摩マッサージ指圧)と西洋医学(医師の診療・リハ)のケアの連携・併用可 能な、全国でも稀有な施設となったことが大きいと思います。一人の患者様について、痛 みの強い急性期には鍼灸部門で消炎鎮痛を集中的に行い、痛みが落ち着いた亜急性期~回 復期にリハ科部門を併用してストレッチや筋トレといった理学療法により痛みの出にくい 体を作るといった、病期や状態に合わせた治療が可能となりました。個人的には、患者様 の状態把握を両部門で共有したり相談したりできる点、多くの部位に痛みのある患者様に ついて、今日の状態ならば肩は鍼灸で、股関節はリハで治療しましょうとスタッフルーム でその都度相談できる環境に大変感謝しております。このようにゼロから始まったリハ科 開設を支えてくださったのは、それ以前から長い歴史と実績のある本学医療センターの鍼 灸・外来・検査部門の存在が大きく、大変感謝しております。 最後になりますが、近年まれにみる右肩上がりのリハ科の成長を支えた一番の功労者で ある佐久間先生、その後の専任業務を引き継いだ杉田先生、木村先生をはじめ、理学療法 学専攻の先生方、医療センターの皆様、プロジェクトからリハ科を支えた歴代の保健科学 部の関係の方々、皆様が大小様々な課題解決を積み重ねてこられた結果が、今の恵まれた リハ科環境を支えてくださっていること、本当に感謝しております。私が新規立ち上げに 関わって学んだことの締めくくりとして、これまで当たり前と思っていた日常が、多くの 方々の努力で支えられていること、積み重ねが全ての基礎となっていることに気づけるよ うになり、感謝することが増えました。皆様、日々の業務、本当にありがとうございます。 p21 関節可動域を計測する理学療法士の実習生 p22 ◆東西医学統合医療センターの 取り組み◆ p23 今年度の施術部門の取り組み 施術部門 櫻庭 陽・吉川一樹 今年度も施術部門では、新規や継続事業まで、様々な取り組みを行いました。新規事業 としては、評価アプリの作成に着手しました。このアプリは、施術の際に患者に記入して もらう評価用紙等をタブレットで入力することで、視覚障害者が読み上げ音声で確認でき ます。今後計画している電子カルテとの連携も視野に入れて、2023 年度の運用を目指し ます。次に、筑波大学病院の桐の葉モールでアスレチックリハビリテーションやストレン グス&コンディショニングを提供しているWIT(Willing Institute of Tsukuba)と地域 の健康を支えていきたいという考えから、合同で研修会を開催しました。本学関係者や研 修生のほか、他の盲学校や関係業団の先生方もオンラインで参加いただきました。 継続事業は、視覚障害者を対象としたリカレント事業を実施しました。文科省の「DX 等成長分野を中心とした就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業」において、 「視覚障害を有する鍼灸あん摩マッサージ指圧師が開業して活躍するための基礎をつくる プログラム」が採択され、事業委託を受けて実施しました。専門知識や技術のほか、情報 処理・コミュニケーション・セルフアドボカシー・治療院経営や運営スキルを学ぶ、全 39 授業、計79.5 時間のプログラムを作成し、全国から27 名が受講しました。その他、 高大連携事業として、福岡県立福岡高等視覚特別支援学校とオンラインによる実技教授と カンファレンスを行いました。茨城県盲学校とは、初めてオンラインによる合同カンファ レンスを開催しました。昨年より、新型コロナウイルスの影響で実技を学ぶ機会が減った ことから、研修生を対象に実技研修会を開催しています。今年度は、年間を通じて計10 回のシリーズで、茨城県鍼灸師会の坂本 一志先生を招いて開催しました。つくば鍼灸研 究会は、学外会員が41 名となり、緩和ケア、脈診、治療院経営、歩行観察、症例報告の 計5 回をオンラインで開催しました。受託実習は、国際専門学校(1 年生、40 名)、東京 医療専門学校(2 年生、51 名)、日本鍼灸理療専門学校(3 年生、144 名)の3 校を受け 入れ、オンラインで統合医療の実際と医師、理学療法士、鍼灸師の講義を行いました。公 開講座は、理療科教員養成施設や専門学校の初学者6 名を対象に、対面で開催しました。 最後に、研修生等の同窓会を現役研修生の症例発表会および教育講演会とあわせて、オン ラインで開催し、40 名を超える参加がありました。 以上、視覚障害補償の充実、研修生の教育、リカレント教育、地域の鍼灸や健康施設等 との連携、他校の教育など、幅広く活動を展開してきました。今後も皆様のお力を借りな がら、様々なことに取り組んでいきたいと思います。 p24 リカレント事業 実習の様子 WIT(Willing Institute of Tsukuba)合同研修会の様子 p25 東西医学統合医療センターリハビリ部門の取り組み(近況報告) リハビリテーション科 杉田洋介・木村健作 【はじめに】 新型コロナウイルス感染症(以下、 COVID-19)のパンデミックが起こっ てもうすぐ3 年となる。筑波技術大 学保健科学部附属東西医学統合医療セ ンターリハビリテーション科 (以下、 本学リハ科)においても、2022 年度も 2021 年度と同様に、COVID-19 感染 対策を施しながらリハビリテーション 診療に取り組んだ一年であった。本学 リハ科におけるこの一年間は、スタッ フの入退職、学会発表、公開講座、心大血管疾患リハビリテーションの再開など数多くの 印象に残る出来事があった。この数年、毎年言及していることであるが、COVID-19 流 行前と比較して依然として外来患者数は少ないが、それでも本学リハ科の総収入額、延患 者数は徐々に回復傾向にある。研究面では本学リハ科主導の臨床試験がスタートして約1 年を迎えようとしている。本稿では、「東西医学統合医療センターリハビリ部門の取り組 み(近況報告)」と題して、1. 診療面、2. 研究面、3. 教育面、および4. 社会貢献に分け て報告する。 1. 診療面 2022 年度の診療実績は、診療日数241 日、延患者数3,825 人(前年度比 +0.9%)、総 収入額1,717,5620 円(前年度比 +1.7%)、新患数194(前年度比-8.1)であった。前述した とおり、COVID-19 流行前である2019 年度と比較して、患者数や総収入額が減少してい ることは否めないが、COVID-19 感染流行のピークであった2020 年度と比較した場合、 各指標は回復傾向にある。このデータの背景には、個々のスタッフが患者数を減らさない ように努力したことに加え、心大血管疾患リハビリテーションが再開できたことが大きい。 しかしながら、図1 に示されるように、疾患別患者割合では当該疾患患者の割合は依然 として十分とは言い難いため、次年度以降も心不全や糖尿病などの内科系疾患の患者数増 加を図っていく必要がある。 2. 研究面 2022 年度は、リハビリテーション科初の臨床研究 (臨床試験番号: UMIN000045467)を 開始してから約1 年が経過した。この臨床試験は、腰部脊柱管狭窄症患者に対する運動 図1. 本学リハ科の総患者数の推移 p26 療法の様式(有酸素運動か腰部の安定化を図る従来の運動療法であるストレッチ,筋力強 化運動)を明らかにすることを目的とした単施設でのランダム化比較試験である。現在も 患者リクルートは継続しており、中間解析結果では両群ともにprimary outcome は有意 な改善を示している。現時点ではリハビリテーション部門と診療部門 (整形外科)で共同し て進めているが、将来的に鍼灸などの東洋医学的治療を併用した層別化解析を加えること で、他に類を見ない当センター独自の取り組みとすることが出来ると考えている。また、 2022 年度後半より下肢関節の変性疾患や足部痛を有する対象者に対して足圧計を内蔵し たトレッドミルを用いた定量的な歩行分析 (評価)を開始した。この評価は歩行中に自身の 足の裏のどの区画に強い圧がかかっているかなどが色分けされた図で示されるため理解し やすい利点がある。即ち運動療法介入の効果判定について理学療法士と対象者の両者に定 量的かつ可視化された情報をフィードバックしてくれる有意義な機器であり、この機器を 用いて臨床研究を展開していきたいと構想している。 3. 教育面 2022 年度は、3 名の臨床実習生を受け入れた (評価実習1 名、総合実習2 名)。また、 前年度同様に視覚障碍を有する新人理学療法士1 名が入職した。新人理学療法士の入職 により、本学リハ科の研修生は2 名体制となり、診療を大いに盛り上げてくれている。2 名のうち1 名は鍼灸師の資格を保有 (ダブルライセンス)していることから、今年度もリハ 科と鍼灸部門の両方で研修を行っている。このような新人理学療法士が入職に至った場合、 新人教育のための体系化されたツールが必要であることは言うまでもないが、恥ずかしな がら昨年度まで本学リハ科にはこのような可視化・体系化された評価ツールは存在せず、 教員の経験や感性など曖昧かつ基準により研修生の到達度を判断していた。そこで、この 課題を解決すべく理学療法に関わる技能とソーシャルスキルについて細分化された評価ツ ールを作成して2022 年度より運用し始めている。この評価ツールは、本学理学療法学専 攻とほぼ共通のものを使用しているため、コロナ禍で学生の外部実習が中止なった際に本 学リハ科で実習指導を引き継いだ際も、共通尺度で評価を行える利点がある。 4. 社会貢献 社会貢献の一環として、2022 年度公開講座を本学リハ科主導で実施した。公開講座の タイトルは「糖尿病公開講座 今日から自宅で始められる糖尿病の運動療法」と題して筆 者と新人理学療法士が中心となり行った。受講者の皆様からは概ね良いアンケート結果を 頂戴することが出来た。これを機に、東西医学統合医療センター、および本学リハ科の認 知度を更に向上するようなイベントを企画していきたいと考えている。 【2022 年度の総括と2023 年度の展望】 2022 年度も前年度同様にCOVID-19 感染予防対策を施しながら、一定の外来患者数回 復とリハ科主導の臨床研究を進展させることが出来た。2023 年度の展望として、診療面 においては心大血管疾患リハビリテーション、および呼吸器疾患リハビリテーションの患 者数の更なる増加が急務である。また、近隣施設との連携をさらに強化して運動器疾患リ p27 ハビリテーション、脳血管疾患のリハビリテーションの対象患者数増加を図ることも重要 である。研究面においては、現行の臨床研究を推進すること、および個々のスタッフが有 する研究課題をまとめ上げ、学会発表や学術誌にアウトプットしていく必要がある。教育 面においては、臨床実習や実習系講義の受け入れだけでなく、視覚障碍を有する新人理学 療法士に対する体系化された研修制度の運用が始まったことから、実際に運用したうえで の課題等も抽出していく必要があると考えている。 出産・育児休業を通じて感じた 鍼灸マッサージ治療の価値と医療センターの使命 施術部門 成島 朋美 2022 年度は、医療センターの動向を外部から見守る期間であった。というのも、2021 年12 月に出産した関係で、2022 年12 月まで育児休業中であったためである。医療セン ター教員は産休・育休取得の前例がなく、産休代替の大学との交渉、休職中の業務の調整 など、保健科学部長である加藤先生をはじめ、センター長の鮎澤先生、センター教員の櫻 庭先生には大変ご尽力いただいた。お陰で無事出産することができた。外部から医療セン ターを見守っていた期間には、医療センターホームページの刷新や電子カルテ・治療効果 の評価アプリの試行、視覚障がい者歩行誘導ソフトマットの増設など、出産前に後任の 方々に託した業務が着々と進められ、素晴らしい成果を挙げていた。不十分な引継にも関 わらず、補助員の吉川一樹先生、石山すみれ先生、村山圭祐先生においては丁寧な仕事を 行って頂き、感謝の念に堪えない。また、研修生たちは1 年間見ない間に頼もしく成長 し、2 月の症例発表会では真摯に臨床に向き合った成果が見て取れた。医療センターの研 修制度の質の高さを改めて感じることができた。 一方で妊娠期間は、不整脈や足のむくみに悩まされながらも鍼灸・マッサージ治療を取 り入れ、臨月まで臨床に出ることが出来た。産後は、帝王切開による痛みや母乳育児のト ラブルなども鍼灸・マッサージでケアすることでコロナ禍での出産ではあったが、健やか な育児生活であったと考える。これまで、自身の肩こりや胃腸の不調などに対し、鍼灸治 療でケアをしてきたが、妊娠期間や授乳の関係で服薬を避けたい状態では鍼灸・マッサー ジの有難さが身に染みた。もっと多くの妊産婦さんに経験していただくためには、子育て 中に気軽に受けられる環境が必要だと感じた。これまでの公開講座など医療センターから の発信は、鍼灸治療の啓蒙や医療センターの認知に重きが置かれていたように感じる。鍼 p28 灸・マッサージの効果のアピールや医療センターの認知だけでなく、鍼灸・マッサージを 生活に取り入れやすくするために医療センターが出来る事について検討していくこともセ ンターの使命のひとつと考えた。そのためには、医療センターから外に出て、治療を体験 できる機会を提供することが必要である。つくば市内で鍼灸・マッサージの需要がありそ うな場に積極的に介入し、地域住民の健康に貢献することを目標としたい。 活動報告(診察室) 看護師 武笠 瑞枝・會田 順子 2020 年1 月15 日に新型コロナウイルス感染症が国内で初めて確認されてから3 年と なりました。厚生労働省のまとめでは、これまでに感染した人は累積(2023 年3 月31 日まで)で3,300 万人にのぼっています。当初は、新型コロナウイルス感染症の実体が見 えない中で、とにかく医療センターにウイルスを持ち込まないための対策を、あらゆる情 報を基に必死で行い、これで良いのだろうか?間違ってはいないか?他の医療機関はどう しているのか?いつも自問自答を繰り返しての日々を過ごしていました。現在も「ウイル スを持ち込まない」「患者さんと職員を感染から守る」を念頭に置き、感染症対策を継続 しています。 現在、当センターの来院者数は、感染拡大がピークだった2020~2021 年度と比べると 増加していて、様々な症状で漢方薬や鍼灸施術・理学療法を希望する方、他の医療機関に て通院中だが症状の改善がうまくいかず当センターの治療を希望する方が来院しています。 また、今年度は「コロナ罹患後の症状」「コロナウイルスワクチン接種後の体調不良」 の方が多く来院しています。いわゆる、コロナ感染症の後遺症の症状で、頭痛、倦怠感、 めまい、食欲不振、不眠、やる気が出ない、腕や肩の痛みなどの症状があり、心身の異常 を実際に感じているにも関わらず原因が特定されないために、「気のせい」「考えすぎ」 「歳のせい」と自己判断し周囲に相談できず苦しんでいます。このような方の問診では、 今まで以上に患者さんや家族の話に耳を傾け、寄り添い、患者さんの訴えに真摯に向き合 っています。また、積極的にコミュニケーションを図り、患者さんが様々な思いを表出で きるような信頼関係を築き、その思いを医師へつないでいます。医師は、じっくりと患者 さんの話を聴き、時には雑談を踏まえ診察をしています。現在通院中の患者さんは、初診 時の様々な症状が少しずつ改善しており、表情も明るくなりました。当センターは、他院 では難しい人の心に触れる診療が強みだと実感しています。これからも状況に応じた適切 なコミュニケーションを図り、多様なニーズに対応できる知識やスキルを身につけ、患者 さんや家族から頼られる存在になることに努めていきたいと考えています。 p29 COVID-19 による全国の感染者数の推移(グラフ) COVID-19 による茨城県内の感染者数の推移(グラフ) 参考:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/(2023/08/18 アクセス) p30 ◆東西医学統合医療センターにおける 思い◆ p31 世界に誇る東西医学統合医療センター 保健科学部保健学科鍼灸学専攻令和4 年度専攻長 石崎 直人 月日の流れは早いもので、私が本学の東西医学統合医療センターで鍼灸施術の担当を始 めてから約6年が経過しました。本学の鍼灸手技外来は、全国の鍼灸教育機関の中でもト ップクラスのアクティビティと質の高さを誇る施設であると思っています。特に、医師や 理学療法士の先生方と鍼灸手技部門との連携や、卒後研修制度の内容は高い水準にあり、 私が本学着任前に従事していた大学の附属施設と比べても、多くの面で良い環境が整って いると感じています。このような施設で鍼灸臨床に携わってきたことで、私自身リフレッ シュできたような気分であり、改めてこの原稿を執筆していて外来施術への思いを新たに するところでもあります。 本学の鍼灸施術外来には、毎年、全国各地から新人の研修生が入所し、医療センターに フレッシュな風を送り込んでくれていますが、こうした人たちとの出会いや交流も良い意 味で刺激になっています。特に私の班で研修していただいた方々とは、今でも遠隔通信の カンファレンス等を通じた交流が続いていますし、1年の節目においてもメッセージやサ プライズがあって、楽しい思いをさせてもらっています。鍼灸手技の領域では、卒後の臨 床教育が十分に整備されていないため、単独で開業できる資格を得ていながらも十分な臨 床経験が出来ていない人たちも少なくありません。そのため、鍼灸手技療法の課程を卒業 した多くの方々が、自分の臨床能力に不安を感じているのが現状です。そのような状況下 において、本学のような研修制度には業界や学会からも大きな期待が寄せられています。 本学で研修するために全国各地から集まった皆さんが、研修を終えて、改めてそれぞれの 地で活躍されることは、指導に携わる者の一人としても大変喜ばしいことであり、医療セ ンターのネットワークの充実と、本学の発展にとって大きな力になると信じています。 本学の鍼灸手技外来では、標準的な医療で難渋している患者さんや、慢性の疼痛や機能 障害を有する方、心身の不調を抱える方など複雑な患者さんに遭遇することも多く、毎回 の施術で治療計画や見通しを立てることが、私自身、大変勉強になっています。また、鍼 灸施術外来に通院している患者さんからの評判を聞いて新規に受療してくださる方が多い ことにも感心しています。鍼灸施術外来では年間延べ8,000 人前後の受療数を維持してい ますが、医療センタースタッフの皆さんのご協力や、施術担当者の常日頃からの研鑽が、 こうしたアクティビティの高さを支えているものと確信しています。 本学保健科学部並びに技術科学研究科は、ご承知の通り、視覚障害者を対象とした課程 であり、インクルーシブな臨床教育の面でも先端のノウハウを蓄積している施設でもある と思います。障害を持つ方々にやさしい環境を整備する事は、他のすべてのスタッフや、 学外の保健関連施設においても有用でユニバーサルな環境を創り出すことに繋がると信じ ています。本学医療センターでの様々な取り組みがモデルケースとなって国内外の多くの p32 施設で受け入れられるものとなることを期待しています。視覚障害をもつ学部生や研修生、 大学院生と、その活動を支えるあはき師、医師、理学療法士、検査技師、看護師、事務職 員など様々な職種や年代、立場の方々が交流し切磋琢磨ながら医療センター全体を盛り上 げていける環境は世界的にも価値の高い施設であろうと考えています。 最後になりますが、鍼灸手技療法は、患者さんと直接触れ合う時間が最も長い医療の一 つだと思います。「触(TOUCH)」という感覚は心身の健康にとって欠かすことのできな いものの一つであり、この感覚に積極的に働きかける鍼灸手技療法の価値は今後のIT 社 会において、さらに高まるものと信じています。社会がCOVID-19 の影響を乗り越えよ うとしている今、改めて人と人との触れ合いの良さを見直す機会が得られ、本学鍼灸手技 外来のケアを求めていらっしゃる方が以前にも増して多く来院されることを祈念してこの 稿を締めくくりたいと思います。 以上 受託実習の様子 p33 理学療法学専攻からの医療センターへの期待 保健科学部保健学科理学療法学専攻令和4 年度専攻長 酒井 俊 理学療法士を目指す本学の学生達は、4 年の歳月をかけてその資格取得を目指している。 彼らは、理学療法士としての技能修得が必須であり、なおかつ医療人としての人間性の研 鑽を積むことも求められる。昨年と同じ内容を記すが、そこで重要になるのが臨床実習で あり、当専攻では、4 年間で4 回の臨床実習の機会がある。1 年次の施設見学に始まり、 4 年次では病院・施設の理学療法士の指導のもとに患者を担当し、治療の立案および報告 書の作成・症例提示まで出来る能力の獲得を目指す。卒業後、理学療法士として日常業務 に携わるためには、実習を通してその手技能力を高めることが必要になってくる。 令和4 年度も、コロナウイルス感染に対する診療体制は継続したが、感染対策下での 診療にも余裕が出来てきた印象がある。もちろん、医療センターには学生の臨床実習をお 願いし、その受入には大変感謝している。医療センタースタッフは、専攻の事情をよく把 握し、学生達が満足していかに積極的に実習に参加していけるかを、彼らの性格や特性に 合わせ、細やかな指導を行っていただいている。今後も、実習施設の一つとして組み込み たいと考えている。 医療センターリハビリテーション科では、整形外科疾患・脳血管障害の患者割合は他 の施設同様、リハビリテーションの中心であるが、神経変性疾患・小児症例への対応、心 臓リハビリテーション、インソールの充実は他に誇ってもよい状況であり、今後はそれら の症例数を重ね、医療センターの特徴としてほしい。また、動画解析ツールによる運動解 析とリハビリテーションへの応用は、研究成果を出し、対外的にも発信して欲しい内容と 捉えている。そして、本医療センターの特徴である鍼灸部門があることから、リハビリテ ーションと鍼灸を併用した治療が可能であり、これらのハイブリット治療の特徴を明らか にしてほしいと思う。 視覚障害を有する本学の学生達は、卒業後の医療施設への就職に難がある例や、職場の 不理解から就職後早々に離職する例も多い。そのため本医療センターは、卒業生の初期研 修の場として彼らを受け入れ、理学療法士としての基本技能・職業人としての基本を教育 する施設となって欲しいと期待している。その体制はまだまだ未熟であるが、医療センタ ースタッフのみならず理学療法学専攻教官も交えて、その体制を構築できればと考えてい る。 p34 ◆卒後臨床教育(研修制度) 修了者の寄稿◆ p35 筑波技術大学・統合医療センターと私との関わり 大阪医科薬科大学病院 麻酔科・ペインクリニック 技術職員 久下浩史 Ph.D(社会福祉学) 本執筆は、筑波技術大学・統合医療センターと私との関わりについて、筑波技術短期大 学・診療所から約30 年間を振り返り、一人の鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師の歩みを 述べたいと思います。 東西医学統合医療センターは、1992 年(平成4 年)4 月に筑波技術短期大学附属診療 所・施術所として開設し、2005 年(平成17 年)10 月 筑波技術大学保健科学部附属医療 センターとして開設31 年となったそうです。私は、1992 年4 月から1995 年3 月の3 年 間を短大の学生として過ごしました。その後、1995 年4 月から大阪医科大学病院(現大 阪医科薬科大学病院) 麻酔科・ペインクリニックの実習生を経て、1997 年に鍼灸師とし て技術職員となり、臨床、研究、教育に努めてきました。その当時の鍼灸界は、臨床、教 育、研究の活動を行う場所としては、筑波技術短期大学附属診療所(現筑波技術大学東西 医学統合医療センター)以外に関西鍼灸短期大学(現関西医療大学附属診療所)、明治鍼 灸大学(現明治国際医療大学附属鍼灸センター)があり、大学病院での鍼灸研修に埼玉医 科大学東洋医学診療科、東京大学医学部附属病院リハビリテーション部物理療法、近畿大 学東洋医学研究所附属診療所、大阪大学大学院歯学研究科口腔科学専攻高次脳口腔機能学 講座歯科麻酔科などで鍼灸臨床や研究、教育が行われたか、あるいは医学部の各教室内で 学位取得など研究を行っていたと思われます。2000 年に入り、鍼灸施術を行う病院や臨 床研究などが活発となり、鍼灸師が博士号を取得するために研究数も多くみられるように なった時期と思われます。私も2002 年から2008 年まで九州保健福祉大学大学院へ博士 号を取得するために修学した思い出を振り返ることができます。 その際、診療所内の恒温室にあるサーモグラフィーを用いた学生時代での卒業研究(熱 痛刺激による全身皮膚温分布の変化)は、サーモグラフィーを用いて右合谷穴 LI4 へ熱 痛刺激をペインメーターで半米粒大相当の刺激として、前面全身皮膚温分布の経時的な皮 膚温変化を観察した研究を行いました。この研究は、その後の大学院や研究、教育に繋が り私の知識としてよい経験になったと考えております。つまり、卒業研究を経験すること で次研究や大学院の研究の利益となったと思っています。 また、2021 年10 月から行われた「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進 事業」の「聴覚・視覚障害者のための共生社会実現に向けた『超』職業実践力育成事業」 を受講して、私事のスキルアップと西洋医学や東洋医学の再認識ができ、臨床、研究に自 信に繋がることができました。このような視覚障害者がWeb を用いて遠隔から知識を得 れるようになったのもコンピュータの発展かつ活用できる環境があってと思います。 p36 2023 年3 月の「東洋医学ホントのチカラ」(NHK 総合)で放送された症例(起立性調 節障害に対する漢方治療・鍼施術)の取材参加では、西洋医学と東洋医学の併用治療によ るものでした。その鍼施術では、短大の学生時代や2005 年から2017 年までの筑波技術 大学客員研究員での知識から「体性―自律神経反射」を臨床に生かしたものであります。 起立性調節障害の特徴である体位変換による体位頻脈などは、自律神経の不調和によると 考えられており、朝起きれない、めまいや頭痛などの不定愁訴の症状がある。鍼施術は、 自律神経の不調和や体位頻脈を通常の脈拍への改善、自律神経の正常化が期待するもので あります。体性―自律神経反射については、鈴木郁子先生の「自律神経の科学:身体が整 う」とはどういうことか」(Blue Backs, 東京. 2023.4.12 発刊)を参照していただければ と思います。私は、全盲ですが、Kindle を活用して書籍を読みました。 更に卒後では、学会発表・参加の際に大学教員との交流で情報交換ができたことも研究 の利益となっています。1つの事例では、当時統計解析を行う際、SPSS を利用しており 金額面で利用が難しくなったとき、音声を工夫することで R の利用が可能と大学教授か ら助言いただき、統計解析が可能となり、感謝するものでありました。 このように筑波技術大学や統合医療センターに関われたことで、鍼灸、あん摩マッサー ジ指圧の研究報告や臨床に繋がっていると思っています。この場を借りて感謝申し上げま す。 医療センターでの卒後研修の経験 国立国際医療研究センター病院 リハビリテーション科 能智 悠史 私は筑波技術大学の理学療法学専攻を卒業し東西統合医療センターリハビリテーション 科で2 年間の卒後研修を行いました。医療センターでは初めての臨床経験を積む中でリ ハビリテーション科の先生方を始めとして各職種の方々に大変お世話になりました。 研修期間中は他の病院や施設では得られない貴重な経験や学びを得ることが出来たと思 っています。医療センターは各診療科があり様々な患者様のリハビリテーションを経験す ることが出来たことや病院外での症例発表の場を頂けたこと、筑波大学附属病院での小児 リハビリテーションの経験なども鮮明に覚えています。研修1年目の時にリハビリテーシ ョン科内で勉強会を開催し先生から「論文だったらなんでも良いって物じゃない」と言わ れたことを覚えています。学生の時は論文になっていれば良いものだと勝手に解釈してい ましたが先生から論文の見方を改めて教えてもらったことや、超音波エコー、レッドコー p37 ドなど、他施設ではあまり経験することが少ない機材に触れることが出来たのは今でも大 変役に立っています。他にも色々ありましたが、収まらないので割愛します。また鍼灸科 との合同カンファレンスでは東洋医学の考え方も教えて頂ける場面も多く、鍼灸科の先生 方だけでなく研修生とも関われたことは貴重な経験でした。 卒後研修が終了し、他の病院で勤務している今でも医療センターで技術や知識、経験は、 他の病院では得ることが出来ない貴重な物であると感じています。これから医療センター で卒後研修を行う方にも、より良い経験が得られることを期待しています。今回は、医療 センター年報第4号発刊に際してお声がけして頂きありがとうございます。 「鍼灸師」ってどんな職業なのだろう? くらさわ鍼灸院 倉沢智子 4 月から、筑波技術大学統合医療センター(以下、医療センター)の研修が始まると、 指導教員の下、鍼灸施術を希望する患者さんの診察から治療までのプロセスを、何度も何 度も見て学びます。施術を終えた患者さんの身体の変化を聞いて、鍼灸の効果を実感する ようになりました。 あの頃、鍼灸施術所の手洗い場の隣にあったグレーのスチール棚の最上段に、初めて医 療センターで鍼灸の施術を受ける患者さんのカルテが届く「新患Box」と呼ばれる場所 がありました。研修を始めて2か月が過ぎようとする頃、その「新患Box」に、鍼灸師 になった私が、初めて担当する患者さんのカルテが届きました。指導教官からそのカルテ を受け取った際、「この患者さんは今日からあなたの患者さんです。よろしくお願いしま す。」と伝えられた時の気持ちは、今も忘れません。 私が研修していた2000 年頃から、鍼灸の新しい知見も急速に増加しました。情報も知 識のアップデートも必要になるため、今も、筑波に向かう日があります。お天気の良い日 に、筑波大学の医学食堂でお昼を食べ、医学図書館から技術大学の図書館に行くと、医療 センターが目に入ります。そこから、体育芸術図書館の方に、足を延ばすこともあります。 大きな木の下から空を見上げながら歩くと、元気が出ます。飽くことなく、こんな風に過 ごす時間を持ち続けていられるのは、あの貴重な研修を経験出来たからと思っています。 p38 ◆研修生・在籍者の声◆ p39 研修生 レジデントコース 小林 敬 私は東京で31 年務めた会社を早期退職し、実家のある長野市の専門学校で鍼灸師の資 格を取得しました。会社での仕事はシステムエンジニアで、医療とは全く無縁でしたが、 第二の人生は地元長野で開業し、高齢者がいつまでも元気に暮らせるように地域医療に貢 献したいと考えています。専門学校では臨床実習もあり、実際の患者さんに対して施術を 行うこともありましたが、それだけでは卒業後の開業に不安があるため、専門学校の先輩 から紹介して頂いた当医療センターで研修することにしました。 私はこの研修で、開業後に地域の医療関係者と患者さんに信頼される鍼灸師を目指し取 り組んでいきたいと考えています。具体的には、医師・医療従事者およびケアマネージャ たちと円滑かつ正確にコミュニケーションができる知識、常に最新の医療情報・知識・技 術を収集・修得・向上させる習慣、そして、患者さんに対する真摯で誠実な態度、を身に 付けたいと思っています。 一年目の研修を終えて振り返れば、最初に課せられる日々の環境業務が、年齢のせいに しますが体力的にとてもつらかったことが思い出されます。一時は研修が続けられないの ではと不安になりました。しかし、先輩や仲間のサポートにより続けられることが出来ま した。つらい環境業務でしたが、開業に向けて清潔で安全な環境を整えるための知識や技 術など非常に重要なことを学ぶことが出来ました。また、日々の臨床、文献調査や症例報 告等々も、いつも四苦八苦していましたが、少しずつではありますが成長してきている実 感があり、うれしく感じています。信頼される鍼灸師への道のりはまだまだですが、この 年齢になっても、厳しくもあたたかく指導してくださる先生方に感謝して後一年頑張って いきたいと思っています。 研修生 レジデントコース 村井 史昌 現在66 歳、一昨年まで半導体業界一筋40 年「仕事人」だった。50 代後半から「人間・ 人生」って何?と思い悩んだ挙句、行き着き先は・・・ 人は一人で生きていると「ヒト=一」誰かに喜ばれるように生きようとすると、そこには ヒトとヒトがいて、その「間」で生きて初めて人間に変わる。人の間で生きる、つまり人 生は何かを成し遂げたり、欲しい物を得たり、だけでなく「人の間で喜ばれる=必要とさ れる」言い換えると『ありがとう』と感謝される存在になる、に行き着く。(あと四半世 紀、人間として人生を終えたい!が最後の望みなので)『ありがとう』と言われるように なるには??と暗中模索の中、身体的には腰痛悪化で整形外科に通うも良化せず、鎮痛剤 も効かなくなり、会議終了後は暫く立てず、電車では激痛で立てず乗り越し得意先との打 合せに遅れる始末。心配した得意先から鍼灸治療を勧められ一縷の望みを託し受診。する p40 と激痛で立つのもやっと、が多少痛みは残るも初診で激変(NRS10→3)「ありがとうご ざいます」を連発。施術中の先生の鍼灸話に心惹かれ、患者さんの笑顔になって帰る姿、 そして自分の心底『ありがたい』という気持ちが相重なり、鍼灸こそ探していた「人間」 への道では⁈と考え始めた。幸い通勤経路に夜学があり、先生、家族、医師の従兄に相談。 皆から背中を押してもらい60 の手習いで入学。運良く3年で資格取得。会社へ辞表を出 すも思いもよらぬ慰留。あれっ、ここでも必要とされている⁉もしかして会社人生でも人 間だったのかな?と定年までは「仕事人」でいようと考え直す。昨年定年を迎え一から勉 強‼と研修に飛び込み現在に至る。未だ病態把握もままならず、施術効果には?おまけに 2 度のincident。実力もないのに先生と呼ばれ戸惑いと違和感を禁じ得ないが 『あと1 年、困知勉行だ』 抱負は安全かつ効果的施術を身につけ患者に「楽になった」と感じて貰うだが 『まだまだ遠いな』 研修は思っていた内容とは違ったが 『いや~よくもったわ』 研修生 レジデントコース 渡井 達也 渡井達也と申します。私は2018 年に鈴鹿医療科学大学の鍼灸学科に入学し、大学での 4 年間を経て、はり師・きゅう師の資格を取得した後、当医療センターの卒後研修生とし て臨床の現場に参加させて頂く事になりました。 私は、鍼灸師だけではなく、医師や理学療法士等の他職種の医療従事者と行うコミュニ ケーションや臨床での治療を通して、患者さんの持つ様々なニーズや、鍼灸治療で一般に 用いられる東洋医学に限らず、現代医学の主流となった西洋医学での観点を実際の臨床の 現場で学び、より良い治療が行える鍼灸師になりたいと考えています。 当センターの臨床の現場では、私たち鍼灸師の立場からも、医師の診断に用いられるX 線やMRI 検査等の画像に加え、医師のカルテを閲覧する事が可能なだけでなく、リハビ リテーション医学の立場から臨床を行う理学療法士のスタッフの治療の見学等も可能です。 これらの様々な情報源から患者さんが持つ病態について、鍼灸師としての立場から治療を 行う機会が生まれるだけでなく、より多面的に考察することができました。 また、当センターには様々な医師による診療科があり、鍼灸の臨床において最も一般的 な整形外科領域だけでなく、漢方内科や脳神経内科における領域の症状を主訴とする患者 さんやリハビリテーション治療を希望する患者さんを対象とした臨床も経験する事ができ た事に加え、当センターの研修の中では、自身の経験した症例を他の医療従事者に発信す る機会を経て、自身が行った治療を改めて考察する場となるだけでなく、他者からの意見 を頂く経験にもなりました。 p41 1 年間の研修で学んだ事は、今後、鍼灸師として臨床現場を経験していく中で、医療機 関との連携が不可欠な患者さんに起こる万が一の重篤な疾患のスクリーニングや、より詳 細な主訴や病態に対し考察する力になったと思います。今後もより多くの臨床を経験し、 更に多くの患者さんのニーズに応えていきたいと考えています。 研修生 トレーニングコース 工藤 綾乃 ①自己紹介 2010 年に現レジデントコースで2 年間研修生として医療センターに在籍していました. その後,関東圏で開業をしていましたが,視覚に障害が見つかり,国立大学法人筑波技術 大学保健学部保健学科理学療法学専攻に2018 年入学し,理学療法士の資格を取得しまし た.大学卒業後に医療センターのリハビリ部門に在籍していました.鍼灸師と理学療法士 のダブルライセンスを活かすため,2022 年から鍼灸部門でも施術を開始しました.週に 1 日鍼灸の研修を行っています. ②抱負 理学療法士としてのスキルを鍼灸治療でも活かせるように,今まで得た知識・技術をよ り磨き,様々な職種の人たちとコミュニケーションをとり一人でも多くの患者様の笑顔が みられるように精進していきたいです. ③研修の感想 週に1日のみ鍼灸研修ですが,約10 年前の研修の時とは違った印象で取り組むことが できたのではないかと思っています.前回は鍼灸専門学校卒業後に研修生として在籍して いたので,臨床経験をたくさん積み,自分自身の知識・技術を身に付けるため目の前のこ とで精一杯でした.今回は,鍼灸師としての医療センター2年間の臨床経験と理学療法士 としての知識・経験を活かし,鍼灸治療に反映できたと感じています. また,たくさんの鍼灸師の人達と話しができる環境にとてもうれしく感じました.開業 をしていた頃,一人で何事も対処していかなければいけない環境に不安や戸惑いなどあり ました.しかし,医療センターでの先生方の教えや先輩・同期の研修生達とのディスカッ ションを思い出し解決できた事を思い出しました。鍼灸師の人達がこれほど多くいる施設 はないと思っています.他の医療機関では得ることのできない貴重な経験をさせていただ き,感謝申し上げます. p42 研修生 トレーニングコース 大山 裕介 視覚障害者1級の鍼灸マッサージ師の大山です。つくば市在住で、妻と子供2 人の家 族4 人で暮らしています。 私は、30 歳ごろまではほとんど視力に問題はなく通常の生活を送っていました。しか し、網膜色素変性症という目の難病が進行して重度の視覚障害者となり、鍼灸マッサージ 業界への転身を図り、筑波技術大学に入学しました。 これまで、音楽業界、ワイン卸売業界、飲食店開業など、様々な経験をしてきましたが、 鍼灸マッサージ師となってまた新たな人生がスタートしました。 現在は当医療センターで研修しながら、マッサージ店経営とヘルスキーパー勤務と毎日 充実した日々を送っています。視覚障害者となってからは、多くの方にお手伝いいただく ことが増えましたが、一方で施術者として皆様の健康に役立つことができるようになり、 とてもやりがいを感じています。 これからの人生は、視覚障害者としてできること、伝えられること、鍼灸マッサージ師 としてできることを考えながら、社会福祉の啓発や鍼灸マッサージの普及に励みたいと思 います。大黒柱として家族を支えながら、地域の一員としても大きな存在になりたいと思 います。 当医療センターでの研修では、トレーニングコースとして週1日お世話になっています。 仕事をしながら効率よく経験を積むことができて、とても満足しています。臨床経験だけ でなく、技大の先生方、医療スタッフ、他の鍼灸師との関係作りなど、多くのことを学ば せていただいています。 ゆっくりではありますが、自分のペースで経験を積み、有意義な研修生活を送りたいと 思います。 今後の研修生活と研修終了後も引き続き宜しくお願い致します。 研修生 トレーニングコース 川畑亜耶子 トレーニングコース1 年目の川畑亜耶子です。2022 年3 月に筑波技術大学を卒業し、 鍼灸あん摩マッサージ師の資格を取得しました。短期大学時代に理学療法士免許を取得し 仕事をしていましたが。今後の業務継続に不安を感じ、職業選択の幅を広げる目的で鍼灸 あマ指師の資格取得を目指しました。視力障害と重度の視野障害です。今回は施術部門の 研修生としてだけではなく、リハビリテーション科の技術補佐員としても研修を行います。 抱負: 鍼灸師としてセンターでの研修を通して病態の捉え方や刺鍼技術の向上を図り、鍼灸師 として自信を持って患者様の前に立てる力を身につけたいです。特に、東洋医学的な考え p43 方に基づく問診や病態把握、切診・触診の技術を向上できればと考えています。また理学 療法士としての立場から、運動のアドバイスやスタッフ間での情報共有・情報交換を行え るよう取り組みたいです。 研修を終えての感想: 研修で担当した患者様は整形外科疾患が多く、中には鍼灸・リハビリテーションを併用 している方もいました。自分が鍼灸施術を担当する症例、運動療法を担当する症例、どち らの立場に立つこともあり、担当症例に対して“鍼灸・運動療法ではここを意識してほし い”といった意見交換を行えたことはとても勉強になる経験だと感じています。東西医学 統合医療というチーム医療を東西両方の面から経験できました。内科系疾患など東洋医学 的な病態を主とする患者様を担当した際には、治療方針の設定や使用経穴を選穴すること の難しさを改めて実感しました。将来的には東洋医学に基づく施術を行っていきたいとい う思いがあるので、今後も研鑽を積んでいきたいと思います。また、視覚障害に配慮され た環境で研修を行えたことは、どのような環境を整えれば安心安全に行動し施術を行える かを学ぶ非常に良い機会となりました。技術向上の面だけでなく、得るものの多い研修で した。 入所式に撮影 p44 ◆スタッフ一覧◆ p45 ●診療部門 鮎澤 聡 センター鍼灸 教授/センター長(脳神経外科) 白岩 伸子 鍼灸 教授(脳神経内科) 平山 暁 センター 教授 (内科/腎臓内科/漢方内科) 酒井 俊 理学 教授 (循環器内科) 杉田 洋介 センター 助教 薄葉 葉子 理学 教授 木村 健作 センター 助教 三浦 美佐 理学 教授 武笠 瑞枝 センター 看護師 井口 正樹 理学 准教授 会田 順子 センター 看護師 菅谷 久 理学 准教授 (整形外科) 黒木 裕美(非) センター 看護師 佐久間 亨 理学 講師 木村 里美 センター 臨床検査技師 中村 直子 理学 講師 大野 貴子(非) センター 臨床検査技師 松井 康 理学 講師 今泉 里美(非) センター 臨床検査技師 水木 知恵 センター 診療放射線技師 小西 美佳 センター 研究員(非常勤) 工藤 綾乃 センター 契約職員(研修) 荒川 颯太 センター 契約職員(研修) ●施術部門 櫻庭 陽 センター 准教授 殿山 希 鍼灸 教授 成島 朋美 センター 助教 石崎 直人 鍼灸 教授 野口 栄太郎 鍼灸 名誉教授 非常勤 佐々木 健 鍼灸 准教授 佐藤 美和 センター 補助員 近藤 宏 鍼灸 准教授 吉川 一樹 センター 補助員 福島 正也 鍼灸 講師 石山 すみれ センター 補助員 笹岡 知子 鍼灸 助教 村山 圭祐 センター 補助員 周防 佐知江 鍼灸 特任研究員 p46 ●事務 ※2022 年4 月 末武 理絵 センター 補助員 菊地 勇史 鍼灸 大学院 浦本 諭 センター 研修生 レジデント 宮本 美樹 鍼灸 大学院 小副川 隆章 センター 研修生 レジデント 遠藤 あかね センター 研修生 トレーニング 上柿 すみれ センター 研修生 レジデント 松枝 宏幸 センター 研修生 トレーニング 水香 一芳 センター 研修生 レジデント 中村 智史 センター 研修生 トレーニング 深川 柱溶 センター 研修生 レジデント 若菜 潤 センター 研修生 トレーニング 三浦 桜爾 センター 研修生 レジデント Thein Kyaw Linn センター 研修生 トレーニング 望月 憲之 センター 研修生 レジデント 鈴木 諄 センター 研修生 トレーニング 北野 勢津子 センター 研修生 レジデント 大山 祐介 センター 研修生 トレーニング 小林 敬 センター 研修生 レジデント 川畑 亜耶子 センター 研修生 トレーニング 村井 史昌 センター 研修生 レジデント 工藤 綾乃 センター 研修生 トレーニング 渡井 達也 センター 研修生 レジデント 青柳 充 係長 松原 亜矢 総合受付 亀山由美子 リハ受付 沖山富美子 一般職員 新谷真奈美 総合受付 大橋 典子 鍼灸受付 飯島 悦子 総合受付 p47 レッドコードを用いた下肢の可動域訓練 p48 ◆活動報告◆ p49 2022 年度活動報告 4 月 2022.04.01 入所式 2022.04.06 年度始式対面 5 月 2022.05.25 手技療法勉強会(第1 回) 6 月 2022.06.13 福岡県立福岡高等特別支援学校 遠隔授業 2022.06.22 手技療法勉強会(第2 回) 7 月 2022.07.04 第1 回COMPASS(松井康 先生) 2022.07.13 WIT&筑波技術大学東西医学統合医療センター合同研修会(第1 回) 2022.07.27 茨城県盲学校理療科教員 オンラインカンファ 2022.07.27 手技療法勉強会(第3 回) 8 月 2022.08.04 施術部門 大掃除(1 回目) 2022.08.05-16 施術部門 診療時間延長に関するアンケート実施 2022.08.23-25 呉竹学園 東京医療専門学校 受託実習 online 2022.08.31 手技療法勉強会(第4 回) 9 月 2022.09.08, 14, 20 日本鍼灸理療専門学校 受託実習 online 2022.09.11 研修生施設説明会 2022.09.14 第2 回COMPASS(石山すみれ 先生) 2022.09.17 施術部門電子カルテ用西棟LAN 工事 2022.09.21 医療センター運営委員会 2022.09.28 インフルエンザ予防接種 2022.09.28 手技療法勉強会(第5 回) 10 月 2022.10.01 公開講座(初学者)online p50 2022.10.12 WIT&筑波技術大学東西医学統合医療センター合同研修会(第2 回) 2022.10.16 研修生選考会(前期) 2022.10.26 国際鍼灸専門学校受託実習online 2022.10.26 手技療法勉強会(第6 回) 11 月 2022.11.06 公開講座(初学者)online 2022.11.14 福岡県立福岡高等特別支援学校 オンライン実技授業 2022.11.16 第3 回COMPASS(中村直子 先生) 2022.11.22 つくば鍼灸研究会(木村健作 先生) 2022.11.23 研修生施設説明会 2022.11.30 手技療法勉強会(第7 回) 12 月 2022.12.21-23 コロナ感染拡大のため,施術部門限定外来 1 月 2023.01.05-06,17,24,31 リカレント見学実習 2023.01.11 WIT&筑波技術大学東西医学統合医療センター合同研修会(第3 回) 2023.01.20 弱視教育研究会 2023.01.21-22 文科省委託リカレント事業(実技実習) 2023.01.24 つくば鍼灸研究会(吉川一樹 先生) 2023.01.25 手技療法勉強会(第8 回) 2 月 2023.02.01-02,08-09,26 リカレント見学実習 2023.02.02 福岡県立福岡高等特別支援学校 遠隔カンファレンス 2023.02.03 施術部門 避難訓練 2023.02.15 医療安全研修会 2023.02.19 研修生発表会および研修生同窓会 2023.02.21-22 リカレント実技実習 2023.02.22 手技療法勉強会(第9 回) 2023.02.25-26 文科省委託リカレント事業(実技実習) 2023.02.26 医療センター公開講座 (糖尿病公開講座 今日から自宅で始められる糖尿病の運動療法) 2023.02.27 第4 回COMPASS(湯浅龍彦 先生) p51 3 月 2023.03.01 平山暁 先生 最終講義 2023.03.05 研修生選考会(後期) 2023.03.15 医療センター大掃除 2023.03.15 手技療法勉強会(第10 回) 2023.03.16 施術部門 大掃除(2 回目) 2023.03.22 研修生退所式(遠藤・浦本・小副川・上柿・水香・三浦・望月・リン・ 若菜・川畑) p52 "COMPASS" 令和元年度から、"COMPASS"という医療センター全部門の合同勉強会を企画しており, 本年度は4 年目となりました。これは、”Conference on Medicine, Physiotherapy, and Acupuncture. Skills and Studies” の頭文字をとったものです。これには、我々自身が 羅針盤になり、新しい文化を皆で創って行こう、という意味が込められています。 "COMPASS" 令和4 年度 第1 回 2022.07.04 松井 康 先生 「ブラインドサッカー日本代表におけるメディカルサポート」 令和4 年度 第2 回 2022.09.14 茨城県立医療大学 保健医療学部 医科学センター 石山 すみれ 先生 「頭痛の診療と鍼治療」 令和4 年度 第3 回 2022.11.16 中村 直子 先生 「成長期の体の鍛え方と注意点」 令和4 年度 第4 回 2023.02.27 鎌ヶ谷総合病院千葉神経難病医療センター センター長 湯浅 龍彦 先生 「1 例に学ぶパーキンソン病:鍼灸と量子まで」 p53-54 "COMPASS 発表スライド" 令和4 年度 第1 回 2022.07.04 松井 康 先生 「ブラインドサッカー日本代表におけるメディカルサポート」 ※発表スライドの一部を抜粋して掲載 p55-56 令和4 年度 第2 回 2022.09.14 茨城県立医療大学 保健医療学部 医科学センター 石山 すみれ 先生 「頭痛の診療と鍼治療」 ※発表スライドの一部を抜粋して掲載 p57-58 令和4 年度 第3 回 2022.11.16 中村 直子 先生 「成長期の体の鍛え方と注意点」 ※発表スライドの一部を抜粋して掲載 p59-60 令和4 年度 第4 回 2023.02.27 鎌ヶ谷総合病院千葉神経難病医療センター センター長 湯浅 龍彦 先生 「1 例に学ぶパーキンソン病:鍼灸と量子まで」 ※発表スライドの一部を抜粋して掲載 p62- 令和4 (2022) 年度 国立大学法人筑波技術大学 保健科学部附属 東西医学統合医療センター 発表会・講演会・同窓会 資料集 令和5 年2 月19 日 13:00~ Online 開催 p63-64 鍼治療で頭痛頻度が軽減した一症例 研修1年目 川畑 亜耶子 【目的】4 年にわたり連日発生する頭痛に対し,鍼治療により頭痛の発生頻度の軽減 がみられた症例について報告する. 【症例】20 歳代女性.主訴は頭痛と頸肩部痛. 【現病歴】X-4 年,第1 子出産後より頭痛・頸肩部痛が出現.X-2 年,頭痛外来を受 診するも処方薬が合わずに以降は通院せず.X 年6 月,血縁の紹介で当センター受診 となる. 【所見】頭痛部位は両側頭部,ズキズキ・ガンガンする強い痛みで拍動感はない.起 床時の痛みはなく,午前10 時頃に突然出現(NRS7/10)する.15 時頃に頭痛はピーク となり,その後徐々に軽減するが,就寝時まで続くというサイクルを毎日繰り返す. 寛解・増悪因子なし.両側側頭筋,頸部~肩背部筋群の過緊張を著明に認める.頸肩 部の可動性や神経所見は異常なし. 【治療・経過】頭板状筋・半棘筋及び僧帽筋への置鍼と側頭筋・側頭頭頂筋圧痛部へ の単刺術から開始し,4 診目より頸肩部への置鍼をEAT へ変更した.EAT 開始後は 頭痛発生頻度が週平均2回程度にて推移している.HIT-6 項目では常に横になりたい と感じていた状況が,最終評価ではほとんどなくなった. 【考察】同様のサイクルで4 年にわたり連日発生していた頭痛が,鍼治療により週平 均2 回程度まで軽減を認めた.頭痛の性状や身体所見から病態を側頭部・後頸部~肩 背部筋群の持続的過緊張による緊張型頭痛と推定,緊張型頭痛の発生機序は頭部の筋 群より後頸部や肩甲上部・肩甲間部の筋群の過緊張が重要であるとの報告をもとに, 対象筋群の緊張緩和による頭痛軽減を目的とした施術を開始した.刺激量に配慮し置 鍼から開始し,4 診目以降は頸肩部筋群の筋ポンプ作用による局所循環改善・緊張緩 和の促進を目的としたEAT へ変更した.EAT 開始後は頭痛の発生頻度が週平均2回 程度で推移していることから,本症例の頭痛の発生要因に頸背部筋群の持続的筋緊張 が大きく関与しいていることが考えられた. p65-66 MOHを背景とした慢性頭痛に対する鍼療法の一症例 研修1 年目 小林 敬 【目的】MOH を背景とした慢性頭痛患者に対して従来の鍼治療と後頭部C2 末梢神 経野鍼通電療法(EA-C2-PNfS)の併用を試行したので報告する。 【症例】55 歳女性。主訴は頭痛。 【現病歴】30 年前より誘因不明の頭痛を発症。9 年前より片頭痛と緊張型頭痛の混合 型慢性頭痛により内科通院。MOH の可能性と頸肩部痛増悪傾向のため鍼灸治療を開 始。 【現症】部位と性質は左のこめかみと目の奥がズキンとする痛み。程度はNRS7(最 大の痛み10)。予兆、誘発因子、前駆症状はなし。随伴症状は頸肩部痛。増悪因子は 不明で寛解因子は服薬。日内変動は昼にピークとなる。ADL 制限は増悪すると外出 や介護ができない。【既往歴】1年前シェーグレン症候群、身体表現性障害、当年3 月セロトニン症候群 【併用薬物】ナラトリプタンを約月20 回(週5 回)使用。ロキソプロフェンおよびロ メリジンは頭痛増悪予防でほぼ毎日服用。カロナールを軽度頭痛時ロキソプロフェン の代わりに服用。他、高血圧、不整脈、制吐薬、胃酸抑制剤、抗うつ薬、抗不安薬を 服用 【所見】筋緊張は板状筋、僧帽筋、斜角筋、肩甲挙筋にあり。 【評価】頭痛はHIT-6 を用い、頭痛Diary よりナラトリプタンとNSAIDs の一週間 毎の使用量を集計し評価した。 【治療・経過】治療は後頭部C2 末梢神経野鍼通電療法と筋過緊張部(天柱、風池、肩 井)の置鍼を週一回のペースで5 回実施した。その結果、NSAIDs の使用量は週9 回 から週2 回に減少した。 【考察】当症例はMOH の可能性を否定できない。しかし、性質が片頭痛に近くナラ トリプタンとEA-C2-PNfS が症状軽快に寄与した結果、追加で服用していた NSAIDs の減薬につながったかも知れない。 【結語】MOH を背景とした慢性頭痛患者に対して従来の鍼治療とEA-C2-PNfS を併 用することでNSAIDs の減薬が見られた。 【キーワード】MOH,片頭痛、緊張型頭痛、EA-C2-PNfS、鍼施術(鎮痛) p67-68 起立性調節障害に対する鍼治療の一症例 研修1 年目 村井 史昌 【目的】起立性調節障害(以下OD)に対し鍼治療を施し、改善傾向にある一症例を 報告する。 【症例】18 歳女性、大学受験生、主訴は起床困難。 【現病歴】X‐1 年12 月 起床困難に伴い通信制高校へ転校。X 年3月 学生生活が 楽しく、独自起床が可能となるも同年10 月に症状再発し当センター脳神経外科受診。 X 年12 月鍼治療開始。 【所見】医学的情報:OD と診断。自律神経機能検査は交感神経の働きが極めて不良。 鍼灸初診時:独自起床が困難。臥位から座位へ体位変換で、臥位と座位の収縮期血圧 差 25 mmHg、脈圧差 20 mmHg 、 心拍数差 41bpm。(正常値は血圧差<20 mmHg 脈圧差<10 mmHg 心拍数差<35 bpm) 肩こり、腰痛を訴えており、触察にて、左頭板状筋、左右胸腰背部に筋過緊張が認め られた。 【評価】臥位時及び座位変換後、血圧計(A&D UA-767)で測定し、収縮期血圧差、 脈圧差、心拍数差を算出。起床困難は起床時の状況から判断。 【治療】筋過緊張緩和と全身調整を目的に、胸腰背部を中心に施術。 【経過】初診後の収縮期血圧差14 mmHg、脈圧差18 mmHg、心拍数差36 bpm, また、翌朝8 時に独自起床できたと聴取。2 診以降も初診同様に、施術直後と翌朝に 改善傾向がみられるも、施術間隔が空いた場合は維持されていない。 【結果・考察】OD は自律神経機能の異常に対する治療が重要であり、自律神経中枢 は情動を司る大脳辺縁系とは多くの神経回路によって密接に連絡されている。施術後 は筋過緊張が緩和し、また精神的にリラックスしている様子から、腰背部を中心とし た施術が何等か大脳辺縁系へ影響しこれが作用機序となった可能性がある。一方、施 術効果の維持は概ね1 日。現段階では、施術間隔が1 日であれば鍼治療はOD に効果 があると推測する。 【結語】OD 患者に対して、鍼治療は医学的治療への一つの支援手段になり得る可能 性を示唆した。 【キーワード】 OD 胸腰背部 全身調整 自律神経機能 大脳辺縁系 p69-70 帯状疱疹後神経痛に鍼治療が奏功した一症例 研修1 年目 渡井 達也 【目的】帯状疱疹を発症した患者のうち、およそ2 割が発疹出現から90 日後にも帯 状疱疹後神経痛が残存していたという報告もある。そういった患者であっても多くの 場合、時間の経過に伴って緩徐に症状が寛解していくものと考えられる。今回は、帯 状疱疹後神経痛に対して鍼治療を行い、短期間での効果が見られた一症例を報告する。 【症例】68 歳女性、主訴は左体幹部疼痛 【現病歴】X 年10 月、前胸部を中心に疼痛を伴う発疹が出現。翌日、皮膚科を受診 し帯状疱疹の診断の上、服薬による治療を開始。X 年11 月、発疹は消失し左体幹部 の疼痛は改善傾向も残存。X 年12 月、当センター鍼灸受診を希望。 【所見】左側の前胸部・腋窩・肩背部を含むT1-4 皮膚分節領域発疹痕+、アロディ ニア症状+、日常生活動作に伴う左上肢のあらゆる動作による主訴の再現、VAS によ る評価:30mm 【治療・経過】鎮痛を目的に患部周囲に鍼長40mm 鍼径0.18mm ステンレス鍼を用 い置鍼、初診時の施術後にVAS10mm、1 週間後の2 診目の施術前でVAS10mm、施 術後で7mm と疼痛の改善が見られ、3 診目を行う前に、電話により患者から症状軽 減の為、自身で様子を見たいとの申し出があり治療は終了となった。 【考察】帯状疱疹に対する神経ブロック療法が帯状疱疹後神経痛の防止に非常に有効 であるとする報告がある。また、鍼灸臨床の現場においては肋間神経痛の患者に対し て肋間神経の罹患枝を対象に刺鍼を行う治療法等が知られている。本症例では帯状疱 疹の発症より2 ヶ月が経過し疼痛が残存していたが、治療開始から短期間での疼痛の 軽減が見られた。今回行った鍼治療により疼痛が改善した可能性が考えられた。 【結語】今回の症例では、発症2 ヶ月後より1 週間をおいて2 回の鍼治療を肋間神経 に対して行った結果、疼痛が著しく軽減した。 p71-72 COVID-19 後に出現した倦怠感に対する鍼灸治療の一症例 研修2 年目 若菜 潤 【目的】COVID-19 後遺症と診断された患者に対して鍼灸と漢方の併用治療を行い、 効果が得られた1 症例を報告する。 【症例】30 歳代男性。主訴:COVID-19 後遺症による倦怠感。 【現病歴】X 年2 月にCOVID-19 発症。発熱、関節痛が5 日持続した。感染直後の 症状は改善したが、X 年4月から咳嗽・喀痰が出現した。その後倦怠感が出現し近医 を受診したが、倦怠感は改善せず現在仕事ができないほど強く感じている。X 年6月、 当センターを受診し鍼灸・漢方の併用治療を開始。 【所見】増悪因子:身体を起こすこと。寛解因子:風呂。飲食:1 日1~3 回空腹感 なし。睡眠:倦怠感による起床困難。脈診:細沈。舌診:胖大、白苔厚。腹診:膨満。 触診:右太渓、右腎兪陥凹無力、右陰陵泉、足趾に冷え。寒熱:悪風。聞診:懶言。 【評価】日本語版 Brief Fatigue Inventory(以下、簡易倦怠感尺度)、VAS:最も強 い倦怠感を100 ㎜とする。 【治療・経過】治療は、1~4 診目は処方された漢方である補中益気湯、人参湯、真 武湯を考慮し補益脾肺を目的に、5 診目以降は漢方が加味帰脾湯単剤への変更を受け、 健脾益気、補益心血を目的とし、脾兪、肺兪、足三里などを中心に適宜追加・変更し ながら15 分間置鍼を行った。経過は、簡易倦怠感尺度は初診時8 点から15 診目1 点、VAS は初診時86mm から15 診目40mm といずれも低下した。問診においても、 日によって倦怠感の増減はみられるが、仕事に復帰する事ができ日常生活の改善が得 られていると聴取できた。 【考察】本症例の倦怠感は報告されている肺脾気虚によるもの考えられ、漢方と鍼灸 が同じ治療方針を取ることで倦怠感に対し効果があったと考える。またCOVID-19 後遺症は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群と多くの類似点があり、慢性疲労症候群の 激しい疲労感が鍼灸治療で改善した報告もある事からその有効性が考えられる。 【結語】鍼灸と漢方の併用により、COVID-19 後遺症による倦怠感に一定の改善がみ られた。 【キーワード】COVID-19 後遺症、倦怠感、漢方、鍼灸 p73-74 足底腱膜炎に対する鍼灸治療の1症例 研修2 年目 浦本 諭 【諸言】保存療法を試みるも症状が持続していた足底腱膜炎の症例に対し,鍼灸治療 によって改善がみられたので報告する。 【症例】45 歳男性。医師。主訴は,左足底の痛み。 【現病歴】X 年5 月,ジョギングを終えて帰宅後,左の足底部に違和感が生じる。 徐々に違和感が痛みに変わったため,ジョギングを休止。X 年6 月,痛みが改善しな かったため,T 病院整形外科を受診。足底腱膜炎と診断され,インソールを作製して もらう。X 年8 月,症状が持続するため,鍼灸治療希望で来所される。 【所見】足部アーチの低下,回内足傾向(左>右),左足底腱膜起始部の肥厚•硬結の触 知,足底の冷え,足関節周囲に細絡多数。 【評価】1 週間の平均点なNRS。 【治療・経過】踵骨内側隆起部の圧痛部位への刺鍼を基本とし,腓腹筋および下腿内 側への刺鍼と足底部,足関節周囲への灸(筒)施術を追加した。治療開始から順調に症 状は軽減していき,8 診目NRS1 となり,ランニングが再開できるまでに回復した。 【考察】局所への刺鍼で痛みが改善した。炎症性の疼痛に対する鍼鎮痛の効果は,免 疫系と末梢神経のオピオイド受容体が関わっていると考えられている。足底刺鍼で痛 みが強いようであれば,側方からのアプローチも有効であることが示唆された。 【結語】足底腱膜炎の患者に対し,足底部及び下肢へ鍼灸治療を行うことで症状を軽 減することができた。 キーワード:足底腱膜炎,末梢性鎮痛 p75-76 発症から1 年以上経過したBell 麻痺患者のこわばり感に対して鍼通電療法を行い 改善がみられた1症例 研修2 年目 小副川隆章 【目的】発症から1 年以上経過したBell 麻痺患者の後遺症による麻痺やこわばり感 に対して鍼通電療法を行い、症状の改善が認められたので報告する。 【症例】64 歳男性。主訴は右顔面の麻痺とこわばり感。 【現病歴】X-1 年3 月起床時歯磨きの際に口をゆすいだところ、口から水がこぼれ落 ちることに気が付いた。医療機関を受診し、ベル麻痺と診断され、ステロイドとバル トレックスを処方され1 週間服用した。その後はメチコバールを服用し、経過観察と なった。症状が寛解しないため、同年11 月に本学医療センターの神経内科を受診し 鍼灸治療を開始。 【所見】右顔面の前頭部と頬部に弛緩性麻痺があり、上唇鼻翼部と頬部にこわばり感 があった。病的共同運動なし。柳原法12/40 点。 【評価】柳原法。顔面のこわばり感の変化が現れた施術回での程度(5 段階評価)と 範囲。 【治療と経過】初診から14 診目までは症状のある右側の前頭部、頬部、上唇鼻翼部、 頬部に置鍼(鍼長40 ㎜、直径0.16 ㎜)を週1 回の間隔で行った。施術後3~4 日で こわばり感が戻る状態を繰り返し、弛緩性麻痺部は著変がみられなかった。14 診で の柳原法は14/40 点。15 診より弛緩性麻痺部の改善を目的に顔面神経部への1Hz15 分間の鍼通電療法とPNF 表情筋トレーニングを行った。こわばり感に対しては、非 同期による50Hz15 分間の鍼通電療法を行った。15 診~32 診の間でこわばり感の範 囲は狭くなり、こわばり感の程度は4 (やや強い)から2(弱い)となり、ほとんど 気にならない程度まで改善した。32 診での柳原法は20/40 点であった。 【考察】発症から1 年以上経過し、症状が固定化した症例に対して、非同期で鍼通電 を行い病的共同運動を予防しながら、かつ高頻度の周波数による鍼通電療法を行うこ とでより安全にこわばり感を軽減させられと考えられた。 【結語】非同期・高頻度の鍼通電により病的共同運動を予防しながら、こわばり感を 軽減させられたと考えられた。 【キーワード】:顔面神経麻痺、こわばり感、鍼通電 p77-78 前立腺がんに対する陽子線治療後の頻尿への鍼灸治療の一症例 研修2年目 上柿すみれ 【目的】陽子線治療後の頻尿に対し仙髄排尿中枢刺激と補腎を目的に鍼灸施術を試み た結果、排尿間隔の延長がみられたため報告する。 【症例】80 代男性。主訴は頻尿。 【現病歴】X-8 年,軽度の前立腺肥大と診断。X-2 年, 前立腺がんと診断。ホルモン療 法実施(6 ヵ月)。X-1 年, 陽子線治療実施(21 回)。X 年3 月, 鍼灸治療開始。 【現症】排尿回数は陽子線治療前:昼間8~10 回,夜間1 回。陽子線治療後:昼間 15~17 回,夜間5 回。鍼灸初診時:昼間12~14 回,夜間3 回。切迫感尿意と残尿感を 聴取した。 【推定病態・評価】推定病態は陽子線治療の有害事象・腎陽虚とした。問診での排尿 回数と国際前立腺症状スコア(IPSS)で評価した。 【治療・経過】治療は仙髄排尿中枢刺激・補腎を目的に太渓・関元・腎兪・中髎に置 鍼と中極にせんねん灸を行った。6 診目からは中髎穴に対し低周波鍼通電療法2- 3Hz15 分を追加した。その結果、初診時の排尿回数は日中12 回、夜間3 回。IPSS は23 点であったが開始から18 週目の14 診目では排尿回数が日中10 回、夜間1-2 回。IPSS は14 点と減少した。 【考察】仙骨部鍼刺激による仙髄支配の皮膚と筋の体性求心性神経が求心路となるこ とにより、反射性に骨盤神経活動を抑制。その結果排尿間隔の延長がみられたと思わ れる。また脊髄反射だけでなく上脊髄性の中枢を介した排尿反射にも抑制に作用する 可能性が示唆されている。 【結語】前立腺がんに対する陽子線治療後の頻尿へ鍼灸治療を行った結果、治療期間 中に改善傾向が認められた。 【キーワード】陽子線治療,前立腺がん,仙骨部鍼刺激,頻尿 p79-80 脊索種に伴う左腰臀部から下肢後面痛に対する鍼治療の1 症例 研修2 年目 水香 一芳 【目的】脊索種に伴う左腰臀部から下肢後面痛に対して鍼治療を行い、疼痛軽減と歩 行距離の改善が見られた1 症例を報告する。 【症例】50 歳代男性。主訴は左腰臀部から下肢後面痛。 【現病歴】X-8 年に歩行困難な程の左腰臀部から下肢後面にかけての痛みが出現した ため、近医整形外科を受診。仙骨脊索種と診断され、K 大学病院に転院し、重粒子線 治療を行い疼痛軽減。X-6 年に仙骨と左大腿骨頭周囲に骨転移が確認され、重粒子線 治療再開。X-1年に胸腰椎移行部に骨転移し手術を行うが、左腰臀部から下肢後面の 痛みが悪化。X 年3 月、誘因なく痛みが増悪し杖なしでは歩行困難となったため、疼 痛軽減とADL 向上を目的に当センターを受診し、鍼治療となる。 【所見】疼痛のため検査不可。歩行:30m(杖歩行)。 【評価】VAS:この疾患での最大の痛みを100mm とする。 【治療・経過】主治医より手術痕付近(腰臀部)への施術不可と指示があり、上下肢 のみに施術を行った。初診時は左側殷門-委中に鍼通電療法、両側承山・腓腹筋外側、 右側ハムストリングに置鍼治療を行い、2 診目以降は両側足三里-三陰交や合谷-曲 池への鍼通電療法等、適宜施術箇所を追加した。VAS は初診時88mm から4 診目 25mm に減少し、杖なしで若干の歩行が可能となる。その後、7 診目54mm で杖な し歩行300m 可能、9 診目87mm だが歩行距離は継続し、初診時以前より立位や座 位動作にて左下肢後面の痛みは軽減。主な疼痛部位が臀部へと変化したと聴取できた。 【考察】殷門-委中による坐骨神経へのアプローチが局所鎮痛として、足三里-三陰 交、合谷―曲池へのアプローチが全身性鎮痛としてそれぞれ作用し、主訴が改善した と考えられる。4 診目以降のVAS 増悪については、杖なし歩行が可能となったこと で仕事を含めた日常歩行量が増加したことが影響したのではないかと考えられる。 【結語】脊索腫による左腰臀部から下肢後面痛に対して鍼治療を行い、疼痛軽減によ り杖なしで300m ほど歩行可能になった 【キーワード】脊索種・鍼鎮痛・重粒子線 p81-82 鍼通電療法により腰部脊柱管狭窄症患者のQOL の改善が認められた一症例 研修2 年目 深川 柱溶 【目的】不安や睡眠障害を伴う腰部脊柱管狭窄症(LSS)患者に鍼通電療法を行い、 QOL 及び身体症状による負担感について観察し、QOL の改善が認められたので報告 する。 【症例】74 歳女性。 主訴は、右殿下肢痛 【現病歴】X-1 年12 月下旬お正月の準備で庭物の剪定や草取り、掃除により臀部の 痛みが出現。X 年1 月4 日臀部の痛みで動けなかったため、K 整形外科クリニックを 受診。腰部脊柱管狭窄症及び腰椎変性すべり症と診断され、服薬開始。X 年1 月下旬 臀部から下肢の前面と後面に痛みが広がった。X 年6 月中旬友人から鍼治療を勧めら れ、本学医療センター整形外科受診し、鍼治療開始。 【現症】部位は、右臀部~下腿前面・後面、右下肢前面・後面。性質は鋭い痛み。 程度はVAS(痛み)40 ㎜。増悪因子は、クーラーでの冷え。寛解因子は入浴。日内 変動があり朝方が辛い。間欠性跛行あり。ADL 制限は歩行、高所にあるものを手で 伸ばし取ろうとしたときに痛み増悪。 【所見】反射はPTR+/+、ATR+/+、バビンスキー反射-/-。筋力(MMT)は FHL5/5、EHL 5/5。理学検査はケンプテスト +/-。触察はL4 棘突起の陥凹。圧痛 はワレー圧痛点 -/-。 【評価】VAS(Visual Analogue Scale)、RDQ(Roland-Morris Disability Questionnaire)、SSS-8(Somatic Symptom Scale-8)を用いて評価した。 【治療】側臥位にて患側の腰部脊柱起立筋-臀部坐骨神経点(DIF 点)、脛骨神経、深 腓骨神経、大腿神経に1Hz15 分間の鍼通電療法を週に1 回行った。 【経過】VAS は初診時40mm から17 診目8mm に減少、RDQ は、初診時15 点が 17 診目では9 点に減少し、共に改善。SSS-8 は、初診時7 点が17 診目では8 点とな った。 【考察・結語】鍼通電療法が疼痛閾値の変化と神経根内の血流改善により、右殿下肢 痛の軽減が認められ、QOL も向上したが、身体症状のよる負担感の増加は心理的要 因が関連しているため多角的視点でアプローチする必要があると考える。 【キーワード】腰部脊柱管狭窄症、RDQ、SSS-8 p83-84 間欠性跛行を主訴とする変形性腰椎症に対し 鍼治療と有酸素運動が有効であった一症例 研修2 年目 三浦 桜爾 【目的】脊柱管狭窄症に対する鍼治療は予後が良好とされている。本症例では疼痛に よる間欠性跛行を主訴とする変形性腰椎症に対し、鍼治療と有酸素運動の併用が症状 に改善させた一症例を報告する。 【症例】79 歳男性。主訴は歩行時の右下肢痛 【現病歴】X 年4 月、歩行時の右下肢痛が出現。当初は20 分以上の歩行が可能であ ったが症状は増悪傾向にあった。X 年10 月に3 分の歩行で疼痛が出現するようにな り、趣味であるウォーキングが困難になり、X 年11 月、当センター整形外科を受診 し鍼灸治療開始。 【所見】反射・感覚・筋力検査異常所見なし。右ケンプテスト腰部違和感出現もその 他理学検査で主訴の再現なし。右坐骨神経走行上で圧痛出現。 【治療・評価】梨状筋下孔-脛骨神経または総腓骨神経への低周波鍼通電療法1Hz15 分、L4/L5、L5/S1 神経根近傍 置鍼15 分の鍼施術を行った。患者自身から運動が したいという希望があったため、サイクリングとインターバル歩行の提案をした。評 価は、疼痛出現までの連続歩行時間と疼痛出現時のNRS を聴取した。 【経過】NRS は初診時9 であったが、経時的に軽減し7 診目には3 であることを聴 取した。連続歩行時間は初診時は3 分であったが7 診目には40 分であったことを聴 取した。 【考察】神経根型、下肢の知覚鈍麻がない、発症から1 年未満の脊柱管狭窄症に対す る鍼治療は予後が良好とされている。また有酸素運動によるEIH(内因性鎮痛の作 動)は自発的に行うことが有効であるという報告がある。本症例では鍼灸治療で予後 が良いとされる個体要因に加え、有酸素運動を継続的に行ったことが症状の改善につ ながったと考えられる。 【結語】間欠性跛行を主訴とする変形性腰椎症に対し、鍼通電治療と患者が自発的に 行った有酸素運動が有効であった一症例を報告した。 p85-86 手指変形性関節症の痛みに棒灸セルフケアが有効であった1症例 研修2 年目 望月 憲之 【目的】手指変形性関節症に伴う痛みに対し,鍼灸施術による経過を観察した報告は 少ない.本症例では棒灸セルフケアにより,疼痛強度が低値で維持できたので報告す る. 【症例】71 歳女性.左手中指PIP 関節の痛み. 【現病歴】X 年Y-6 月,誘因なく痛み.セルフマッサージ等で対処.Y-4~3 月, 左中指MP 関節に熱感,腫脹が現れ,リウマチ専門医を受診.リウマチ,ばね指は否 定.入浴時セルフマッサージ,湿布等で対処.Y 月,鍼灸施術開始. 【所見】左手中指X 線画像で,DIP 関節がJSN+,Spur+,PIP 関節がJSN±, Spur-.DIP,PIP 関節同時屈曲で疼痛.把握動作時に左手中指先端が手掌に着かな い.PIP 関節背側近位のやや尺側に圧痛.PIP 関節に腫脹+,発赤-.握力は右 27kgf,左15.9kgf. 【評価】把握動作時の疼痛VAS(想像し得る最大を100 mm)と握力,可動域は把 握動作時の左手中指先端~手掌の距離で評価(全て術前). 【治療・経過】PIP 関節の疼痛局所に,1~3 診目までは置鍼15 分,4 診目から透熱 灸各部位7 壮に変更.2 診終了時に棒灸指導.セルフケア開始(毎晩就寝前1 回,十 分温まり,気持ち良い熱感).適宜,筋緊張部位や痛みを訴えた部位に,鍼,灸,パ ラフィンを実施.初診時と合意終了した322 日目では,VAS は25mm から6mm (セルフケア開始後から低値で維持),握力は15.9kgf から22.0kgf,中指先端から手 掌距離は10mm から0mm に改善. 【考察】本症例では,朝起床時に症状が最も強いため,滑膜炎によるものが主と考え る.棒灸により,TRPV1 活性化によるフレア反応とHSP70 の発現が起こり,炎症 症状による痛みの抑制と炎症によるTRPV1 の感作(痛みの域値低下)の遮断がなさ れ,痛みが低値で維持したと考える.灸によるHSP70 の発現は24 時間で元に戻る とされるため,毎日のセルフケアが効果的に働いたと考える. 【結語】棒灸セルフケアにより,手指変形性関節症に伴う疼痛強度が低値で維持でき た. 【キーワード】棒灸,セルフケア p87-88 進行性の中枢神経変性ランゲルハンス細胞組織球症患者に対し 歩行能力の維持を目的に介入を行った一症例 研修生 理学療法士 荒川颯太 【はじめに】ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans Cell Histiocytosis: LCH)は、 骨髄に由来する未熟樹状細胞の形質を持つLCH 細胞の腫瘍性増殖に、重度の炎症が 合わさった「炎症性骨髄性腫瘍」である。さらに中枢神経性LCH では、MRI T2 強 調/FLAR 画像にて小脳歯状核の進行性・非可逆的病変を認め、四肢痙性麻痺、小脳 運動失調などの運動機能障害も出現する。 LCH は原因不明の希少疾患であり、リハビリテーション介入について報告が限られ ている。そこで今回、進行性の神経症状・歩行障害を主訴とする中枢神経変性LCH 患者に対し、約8 ヶ月間の理学療法を行い、歩行能力の改善が得られたため報告する。 【症例紹介】24 歳男性。4 歳から脳神経内科への通院を開始。移動は17 歳頃まで独 歩、現在はシルバーカー使用下の軽介助にて連続200m程度可能。 【理学療法評価】初期評価では、四肢痙性不全麻痺(左下肢優位)、小脳性運動失調(体 幹優位)、構音・嚥下障害あり。関節可動域検査(R/L)は股関節外転25°/20°、足関 節背屈0°/-5°(内反尖足)、徒手筋力検査(R/L)は肩関節周囲筋4/4・腹筋4・背筋 4・大腿四頭筋4/4、腸腰筋・大殿筋3/3・下腿三頭筋2/2。立位姿勢は骨盤後傾・腰 椎前弯減少し、下肢後面筋の過緊張+。10m歩行は歩行器使用にて18.2 秒(23 歩)。 FIM 99/126 点。 【治療・経過】日常生活活動(主に歩行能力)の維持を目的として、痙性の強い股関節 内転筋・下腿三頭筋に対するストレッチング、体幹・股関節周囲筋の筋力・持久力ト レーニング、協調性運動、平行棒内歩行練習を実施した。8 ヶ月後の理学療法評価で は、下肢の筋力向上(4 レベル)、10m 歩行16.1 秒、FIM 98/126 点となり、歩行能力 を含む日常生活動作の全般が維持された。 【考察】本症例は理学療法実施前と比較して病態の進行は緩やかであった。今回の介 入において、体幹・下肢の柔軟性、筋力および協調運動性が、LCH 患者の歩行機能 維持に重要であることが示唆された。今後も、活動量低下を予防するための介入が必 要であると考えられる。 キーワード:ランゲルハンス細胞組織球症(LCH), 歩行障害, 運動療法 p89-90 腰部脊柱管狭窄症患者に対する有酸素運動と筋力強化運動・ストレッチの 効果比較の報告(第2 報) 研修生 理学療法士 工藤 綾乃 【目的】腰部脊柱管狭窄症(Lumber spine stenosis:LSS)の症状に対する有酸素運 動と筋力強化運動・ストレッチの効果を比較検討して明らかにすること。 【方法】本研究は,LSS 患者14 名(男性:11 名,女性:3 名,年齢:59~81 歳)を対象 とした無作為化比較試験である。研究対象者を筋力強化運動・ストレッチ群(6 名) と中等強度の有酸素運動群(8 名)に無作為に分けて,外来リハビリテーション,お よび在宅にて合計週4 回,計12 週間の理学療法介入を実施した。介入前と12 週間 後で腰痛に対する主観的評価(Oswestry Disability Index:ODI〈%〉),筋持久力 (秒),連続歩行距離(m),および最高酸素摂取量(peak oxygen uptake: peakVO2 〈mL/min/kg〉)を評価した。 【結果】有酸素運動群は,ODI(介入前:30.0→12 週間後:22.6%),腹筋(38.1→56.0 秒),背筋(21.6→43.8 秒),サイドプランク(24.5→40.0 秒),連続歩行距離(268 →329m), peakVO2(22.3→23.9 mL/min/kg)であった。筋力強化運動・ストレッ チ群では,ODI(20.2→11.8%),腹筋(53.5→53.5 秒),背筋(47.1→56.8 秒),サ イドプランク(44.8→55.7 秒),連続歩行距離(550→555m),peakVO2(22.7→ 23.9 mL/min/kg)であった。 【考察】有酸素運動群においては,末梢循環の改善がLSS の症状の改善に関与し, 筋力強化運動・ストレッチ群においては,腰椎の安定性の保持および腰椎伸展方向の 負荷を軽減できたことが有効な傾向に関与したと考えられる。 【結語】本研究にて得られた一連の結果から,有酸素運動群と筋力強化運動・ストレ ッチ群の両方がLSS 患者の症状軽減に効果的である可能性が示唆された。今後はさ らに症例数を増やした検討が必要である。 キーワード:腰部脊柱管狭窄症,有酸素運動,筋力強化運動,ストレッチ p91 東西医学統合医療センター 令和4 年度 業績 ◇原著論文 1) 石崎直人, 深澤洋滋, 増山祥子, 斉藤宗則, 鶴浩幸, 若山育郎. 2021WFAS 執行理事会報 告 . 全日本鍼灸学会雑誌. 72(2) 152-158, 2022. 2) 石崎直人, 深澤洋滋, 増山祥子, 鶴浩幸, 若山育郎. WFAS シンガポール大会報告 . 全日 本鍼灸学会雑誌. 73(1) 41-50, 2023. 3) Ishiyama S, Shibata Y, Ayuzawa S, Matsushita A, Matsumura A, Ishikawa E. The Modifying of Functional Connectivity Induced by Peripheral Nerve Field Stimulation Using Electroacupuncture for Migraine: A Prospective Clinical Study. Pain medicine. 23(9) 1560-1569, 2022. 4) 石山すみれ, 成島朋美, 鮎澤聡.鍼灸治療中に一過性脳虚血発作を認めた一症例.医 療連携における鍼灸師の役割と心構えについて.全日本鍼灸学会雑誌. 72(4) 255-260, 2022. 5) Kayo T, Suzuki M, Kato R, Ishizaki N, Mitsuma T, Fukuda F. Association between Subjective Health Status and Frequency of Visits to Acupuncture Clinic: A Cross-Sectional Study. PloS one 17(11) e0277686, 2022. 6) 小西美佳, 井口正樹, 佐久間亨, 三浦美佐, 菅谷久, 中村直子, 松井康, 杉田洋介, 木村健 作, 成島朋美, 酒井俊. 新型コロナウイルス感染拡大がパラアスリートの身体活動量・ メンタルヘルスに与えた影響 . 日本パラスポーツ学会誌. 31 57-66, 2022. 7) 近藤宏, 石崎直人, 福島正也, 磯勇雄, 田中秀樹. ヘルスキーパー雇用企業に対する雇用 実態および雇用意識に関する調査 . 厚生の指標. 70(2) 33-39, 2023. 8) Sakuma T, Iguchi M, Kimura K. Effects of Simulated Trunk Flexion Contracture on the Margin of Stability during Obstacle Crossing in Elderly Individuals. Gait & Posture. 102 139-145, 2023. 9) Taniguchi Y, Yoshioka T, Sugaya H, Aoto K, Kanamori A, Yamazaki M. Intra- Articular Leukocyte-Poor Platelet-Rich Plasma Injections for Japanese Patients with Osteoarthritis of the Knee: A Three-Year Observational Retrospective Study After Phase 1 and Phase 2a Trials. Cureus 14(10) e30490, 2022. 10) Tomaru Y, Yoshioka T, Sugaya H, Kumagai H, Aoto K, Wada H, Akaogi H, Yamazaki M, Mishima H. Comparison Between Concentrated Autologous Bone Marrow Aspirate Transplantation as a Hip Preserving Surgery and Natural Course in Idiopathic Osteonecrosis of the Femoral Head. Cureus 14(5) e24658, 2022. 11) 深澤洋滋, 石崎直人, 増山祥子, 鶴浩幸, 若山育郎. 日韓鍼とEBM ワークショップ報 p92 告 . 全日本鍼灸学会雑誌. 73(1) 51-57, 2023. 12) 福島正也. 臨床用評価支援アプリ「CAST-Q」の改良とユーザ満足度調査 . 日本東洋 医学系物理療法学会誌. 47(2) 85-92, 2022. 13) Homma M, Miura M, Hirayama Y, Takahashi T, Miura T, Yoshida N, Miyata S, Kohzuki M, Ebihara S. Belt Electrode-Skeletal Muscle Electrical Stimulation in Older Hemodialysis Patients with Reduced Physical Activity: A Randomized Controlled Pilot Study. Journal of Clinical Medicine. 11(20) 6170, 2022. 14) Maruyama H, Sakai S, Ieda M. Endothelin-1 Alters BMP Signaling to Promote Proliferation of Pulmonary Artery Smooth Muscle Cells. Canadian journal of physiology and pharmacology, 2022. 15) Yoshida Y, Uchida K, Kodo K, Shibata H, Furutani Y, Nakayama T, Sakai S, Nakanishi T, Takahashi T, Yamagishi H. Genetic and Functional Analyses of TBX4 Reveal Novel Mechanisms Underlying Pulmonary Arterial Hypertension. Journal of molecular and cellular cardiology. 171 105-116, 2022. 16) 渡邊健,鮎澤聡.坐骨神経鍼通電療法における安全性・再現性の高い刺鍼点および 刺鍼点同定のための触擦法の画像解剖学的検討─坐骨結節―大腿骨間陥凹部刺鍼点 の提案─.全日本鍼灸学会雑誌. 72(2) 132-143, 2022. ◇総説、その他の学術論文 1) 鮎澤聡, 周防佐知江, 白岩伸子. 視覚障害学生の医学教育におけるProblem-Based Tutorial Learning の導入─視覚障害保障から情報創出支援へ─.弱視研究. 60(3) 46-53, 2022. 2) 荒木孝太, 増田洋亮, 石山すみれ, 西村光代, 榎園崇, 石川栄一. 安静時機能的MRI によ る脳梁離断術後の発作転帰予測は可能か. てんかん研究. 40(2) 442-442, 2022. 3) 石山すみれ. 【どこが変わった?どこを変えない?知りたいがわかる頭痛診療】治療 鍼 治療 . 治療. 104(8) 1007-1010, 2022. 4) 櫻庭陽. 施術部門の新患カンファレンス/リカレント教育・活用/高大連携「視覚支 援学校との取り組み」 . 筑波技術大学 FD・SD ハンドブック オンライン授業に関する 事例集. 48-49 2022. 5) 櫻庭陽, 成島朋美, 木村健作, 杉田洋介, 鮎澤聡, 塚本敏朗, 岡田富広. インターネットを 活用した視覚障がい者の理療実技教育の実践ー鍼通電療法の遠隔教授 . 弱視教 育. 60(1) 47-53, 2022. 6) 櫻庭陽, 平山暁, 森山朝正. 血液透析患者の愁訴に対するM-Test の活用 . 臨床透 析. 38(6) 613-620, 2022. 7) 櫻庭陽. 視覚障がい者を対象としたオンライン健康教室の実践 . 令和3 年度健康運動 p93 指導研究助成研究成果報告書. 8-18, 2022. 8) 指田忠司, 近藤宏, 福島正也, 佐々木孝浩, 伊藤丈人, 藤井亮輔. 新型コロナウイルス感 染症拡大下のマッサージ等における視覚障害者の就労及び生活の実態等に関する調 査 . 新型コロナウィルス感染症拡大下のマッサージ等における視覚障害者の就労及び 生活の実態等に関する調査報告書. 2023. 9) 柴田靖, 石山すみれ. 頭部外傷による持続性頭痛 拡散画像による病態解析 . 日本頭痛 学会誌. 49(1) 78-80, 2022. 10) 志村まゆら, 工藤滋, 田中秀樹, 半田こづえ, 福島正也. 基礎医学ウェブ教材共有ネット ワークシステムの必要性─視覚障害者のための医療系職業教育機関の教員を対象とし た調査─ . 筑波技術大学テクノレポート. 30(1) 53-58, 2023. 11) 志村まゆら, 工藤 滋, 田中秀樹, 半田こづえ, 福島正也. 視覚障害の教員が利用しやす い WEB 教材ネットワークに関する調査研究 . 筑波技術大学テクノレポート. 30(1) 94-95, 2023. 12) 成島朋美, 櫻庭陽, 杉田洋介, 村山圭祐, 鮎澤聡, 塚本敏朗, 岡田富広. あはき師卒後研修 における多職種カンファレンスによる学びー筑波技術大学東西医学統合医療センター と視覚特別支援学校研修科をつないだオンライン研修の試みー . 弱視教育. 60(4) 38- 45, 2023. 13) 福島正也. 福祉・医療の現場から 視覚障がいに配慮した臨床用評価支援アプリ 「CAST」シリーズの開発 . 地域ケアリング. 24(11) 63-65, 2022. 14) 松井康. ブラインドサッカー . 日本パラスポーツトレーナー学会誌. 1(1) 65-66, 2022. 15) 松井康. 視覚障がい者はe スポーツをプレー可能か?─e スポーツが視覚障害者の心 身面に及ぼす影響─ . 筑波技術大学テクノレポート. 30(1) 89-90, 2023. 16) 三浦美佐. 運動弱者に対する運動の代替としての電気刺激の可能性に関する研究 . 日 本透析医会雑誌. 37(1) 133-136, 2022. 17) 三浦美佐, 上月正博, 原田卓. 視覚障害者と聴覚障碍者の障害特性に対する生理運動学 的検討 . The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (特別号). S533- S533, 2022. 18) 三浦美佐, 志村まゆら, 伊藤修. 動物モデルでの局所運動が身体機能に与える影響につ いて . 理学療法いばらき. 26 43-43, 2022. 19) 三浦美佐. 高齢透析患者に対する腎臓リハビリテーションが身体活動量に与える影響 の検討:多施設共同治験 . 筑波技術大学テクノレポート. 30(1) 65-66, 2023. 20) 三浦美佐, 下笠賢二. 医工学連携での理学療法士国家試験100%合格推進の研究—イコ ウガク レンケイ デノ リガク リョウホウシ コッカ シケン 100% ゴウカク スイシン ノ ケンキュウ . 筑波技術大学テクノレポート. 30(1) 103-104, 2023. 21) 三浦美佐. 【サルコペニア】サルコペニアの予防における運動療法の現状 . 日本腎臓 リハビリテーション学会誌. 2(1) 23-31, 2023. p94 22) 三浦美佐. 皆さんご存じですか? 透析中の運動療法 . 腎不全を生きる. 67 38-41, 2023. ◇学会発表、学術講演 1) 鮎澤聡, 周防佐知江, 佐々木健, 白岩伸子, 石崎直人, 近藤宏, 櫻庭陽, 成島朋美, 福永克 己.ICT を活用した理療教育におけるアクティブラーニングの展開.第63 回弱視教 育全国大会(栃木大会) 2023 年1 月. 2) 鮎澤聡.ニューロモデュレーション〜歴史と展望〜.第1 回茨城ニューロモデュレ ーション研究会学術集会 2022 年10 月. 3) 鮎澤聡.生体の機能と鍼治療の効果.第50 回日本伝統鍼灸学会学術大会(東京大会) 2022 年10 月. 4) 鮎澤聡.共感を通した空間の創出.人体科学会第32 回年次大会 2022 年12 月. 5) 石山すみれ, 柴田靖, 鮎澤聡. ミレニアル世代が今後の鍼灸医学研究を語り合う 鍼で脳 機能を変えられるか?脳神経外科頭痛外来での臨床研究の経験 . 全日本鍼灸学会学術 大会抄録集 2022 年5 月 (公社)全日本鍼灸学会. 6) 石山すみれ, 柴田靖, 鮎澤聡, 松下明, 松村明.片頭痛に対する鍼を用いた Neuromodulation の機序に関する検討 Functional Connectivity の変化.第36 回日 本ニューロモデュレーション学会 2022 年5 月. 7) 井上萌美, 石崎直人, 鮎澤聡, 周防佐知江. 東洋医学を学ぶ視覚障害者のための用語検 索教材の実用性.音声ユーザーによる有用性の検討. 第71 回全日本鍼灸学会学術大 会 2022 年6 月. 8) 片岡由起子, 近藤宏. 鍼治療がリハビリテーションの円滑な遂行を支援できた一症例 . 第71 回(公社)全日本鍼灸学会学術大会 東京大会 2022 年6 月. 9) 木村健作, 藤井範久.長距離走中の走行フォームから足部変形傾向の推定法の提案. 第27 回バイオメカニズム・シンポジウム 2022 年8 月. 10) 近藤宏. 腰痛に対する鍼灸治療の展望 腰痛に対する鍼治療の効果に及ぼす心理社会的 要因の影響 . 第71 回(公社)全日本鍼灸学会学術大会 東京大会 2022 年6 月. 11) 近藤宏. スポーツ分野の手技療法 臨床に役立つ体幹の運動機能評価と手技療法 . 横浜 市立盲特別支援学校 理療応用研修会 2022 年9 月. 12) 近藤宏. 訪問医療マッサージの有効性と安全性に関する研究 患者の状態改善要因と有 害事象に関する調査 . 公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会 第21 回東洋療法推進 大会in 埼玉 2022 年10 月. 13) 近藤宏. 臨床に役立つ体幹の運動機能評価とストレッチング . 長野盲学校理療科研究 会 2022 年12 月. 14) 近藤宏. 視覚障害者のための大学の教育現場から思う、盲学校児童生徒に身につけて ほしい力 . 長野盲学校全職員向け講演会 2022 年12 月. p95 15) 櫻庭陽, 成島朋美, 近藤宏, 鮎澤聡. 視覚障がいを有する鍼灸あん摩マッサージ指圧師 のリカレント教育 雇用促進を目的とした事業の報告 . 第71 回(公社)全日本鍼灸学 会学術大会 東京大会 2022 年6 月. 16) 櫻庭陽. スポーツ障害 身体状況の把握と鍼通電療法 . 第184 回福岡県鍼灸治療学会 兼 第81 回生涯研修会 2022 年11 月. 17) 櫻庭陽. オンラインを活用した視覚障害者の健康運動教室の実践と課題 . 第31 回日本 パラスポーツ学会 2022 年12 月. 18) 櫻庭陽. With コロナのスポーツ鍼灸 . (公社)全日本鍼灸学会 中国四国支部認定指定A 講座 2023 年2 月. 19) 櫻庭陽. 鍼通電を活用したスポーツ鍼灸 . (公社)全日本鍼灸学会中国四国支部認定指 定B 講座 2023 年2 月. 20) 志村まゆら, 工藤滋, 半田こづえ, 田中秀樹, 福島正也. 視覚障害の教員が利用しやすい ウェブネットワークに関する調査研究 . 日本特殊教育学会第60 回大会 2022 年9 月. 21) 白岩伸子, 鮎澤聡, 玉岡晃, 大越教夫. 片頭痛患者における呉茱萸湯使用群の臨床的特 徴 . 第63 回日本神経学会学術大会 2022 年5 月. 22) 杉田洋介, 酒井俊, 木村健作, 工藤綾乃, 荒川颯太. 高齢者HFpEF 患者の運動耐容能お よび運動療法効果に対する糖尿病の影響:横断的および縦断的検討 . 第87 回日本循 環器学会学術集会 2023 年3 月. 23) 福島正也. ユニバーサルデザインを指向した臨床用評価支援アプリ「CAST-Q」の開 発 . 第23 回日本ロービジョン学会学術総会 2022 年5 月. 24) 福島正也. スマートフォン用関節可動域測定アプリの開発 . 第71 回(公社)全日本鍼灸 学会学術集会(東京大会) 2022 年6 月. 25) 福島正也. 医療・施術各論 頚部及び上肢 「頚肩腕部の診かたと鍼灸手技療法」 . 文部 科学省 令和4 年度 就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業 聴覚・視覚 障害者のための 共生社会実現に向けた『超』職業実践力育成事業 2022 年9 月. 26) 福島正也. スマホ用関節可動域測定アプリ「CAST-R」の信頼性の予備的検討 . 第40 回(公社)全日本鍼灸学会関東支部学術集会 2022 年11 月. 27) 三浦桜爾, 近藤宏. 単刺術により全身の痒みと気分状態が改善した一症例 . 第71 回 (公社)全日本鍼灸学会学術大会 東京大会 2022 年6 月. 28) 望月憲之, 櫻庭陽, 白岩伸子, 鮎澤聡. 糖尿病性末梢神経障害による四肢のしびれに対 する鍼施術の1症例 . 第71 回全日本鍼灸学会学術大会 2022 年6 月. ◇公開講座、イベントなど(医療センター関連を掲載) 1) 櫻庭陽(世話人). 臨床スポーツ鍼灸研究会 . 企画立案・運営等. 2006 年3 月 - 現在. 2) 七川照男, 櫻庭陽. つくば鍼灸研究会. 企画立案・運営等. 2011 年 4 月 - 現在. p96 ◇外部獲得資金等 1) 鮎澤 聡, 周防 佐知江, 佐々木 健, 福永 克己, 白岩 伸子, 石崎 直人, 近藤 宏, 成島朋美, 櫻庭陽.視覚障害教育における情報障害支援のための学習ツールの開発とタブレット 端末の活用.日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 2018 年4 月 - 2023 年3 月. 2) 石崎直人. 我が国における鍼灸治療利用の実態と利用者の意識及び満足度に関する全 国調査 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 2019 年4 月 - 2023 年3 月. 3) 酒井俊, 丸山秀和. セリン代謝変動を切り口とした肺高血圧症の理解と新規治療標的 の探索 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 2021 年4 月 - 2024 年3 月. 4) 佐久間亨. 視覚障害教育における情報補償機能を備えた動作分析シミュレータの開発 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究 2019 年4 月 - 2023 年3 月. 5) 櫻庭陽. 鍼灸電子カルテのアクセシビリティについて . セイリン株式会社 共同研 究 2021 年3 月 - 2023 年3 月. 6) 指田忠司, 近藤宏, 福島正也, 佐々木孝浩, 伊藤丈人, 藤井亮輔. 新型コロナウイルス感 染拡大下のマッサージ等における視覚障害者の就労及び生活の実態等に関する調査事 業 . 大阪府民共済生活協同組合助成事業,埼玉県民共済生活協同組合助成事業 社会 福祉団体等に対する助成事業 2022 年2 月 - 2022 年12 月. 7) 志村まゆら, 小林真, 福島正也. 視覚アクセシビリティに配慮した基礎医学ウェブ教材 ネットワークシステムの構築 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究 (C) 2022 年4 月 - 2026 年3 月. 8) 白岩伸子, 周防佐知江. 視覚障害者のための触図とタブレットを融合した携帯できる 新規学習ツールの開発 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 2020 年4 月 - 2024 年3 月. 9) 杉田洋介. 糖尿病患者の運動実施率と身体機能の向上を両立する革新的遠隔運動指導 システムの開発 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究 2022 年4 月 - 2026 年3 月. 10) 徳永千穂, 酒井俊, 坂本裕昭, 兵藤一行, 宮内卓, 松下昌之助. 放射光微小血管撮影法を 用いた肺高血圧症における微小肺細動脈リモデリング解析 . 日本学術振興会 科学研 究費助成事業 基盤研究(C) 2017 年4 月 - 2023 年3 月. 11) 成島朋美, 櫻庭陽, 鮎澤聡, 中村直子. 筋収縮及び圧・リズムの音声化を指標とした視 覚障害マッサージ師のオンライン実技講習 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基 盤研究(C) 2021 年6 月 - 2024 年3 月. 12) 福島正也. 視覚障がいのある学生と医療者に配慮された臨床評価支援アプリ(UDMAP) の開発 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究 2019 年4 月 - 2023 年3 月. 13) 松井康. レーベル遺伝性視神経症の持久力について -ミトコンドリアDNA の変異に着 p97 目して- . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究 2018 年4 月 - 2023 年3 月. 14) 松下昌之助, 松下訓, 下條信威, 塚田亨, 酒井俊, 平松祐司, 徳永千穂, 坂本裕昭, 兵藤一 行, 三好浩稔. 高空間分解能、高濃度分解能、高時間分解能を併せもつ微小血管造影 が観る世界 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 2020 年4 月 - 2023 年 3 月. 15) 三浦美佐, 伊藤修, 酒井俊, 上月正博. 血管内皮機能改善を目指した至適運動の解明 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 2021 年4 月 - 2026 年3 月. 16) 三島初, 菅谷久. 自家筋膜周囲組織と間葉系幹細胞移植を用いた難治性巨大骨欠損治 療法の開発 . 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 2022 年4 月 - 2025 年 3 月. p98 来院患者数 東西医学統合医療センター開設から年度毎の総患者数 東西医学統合医療センターにおける令和4 年度の総患者数 p99 編集後記 木村 健作 年報第4 号をお読みいただきありがとうございます.本年度も無事に年報第4 号を発 刊することができました. 2022 年度は引き続きコロナ禍による人の行き来の波があり,医療センターの活動も 様々な点で制限を受けたことが反映されています. 2023 年8 月時点では,コロナが5 類 に分類されたものの,感染力自体が低下したわけではないため,メディアで大きく取り上 げなくなっただけで水面下の感染者は漸増傾向のようで油断できない状況です.そのよう な状況にもかかわらず,寄稿文への依頼には,どの先生方も親切に引き受けてくださり, 当年報第4 号も各先生方や研修生OB・OG のご協力の賜物となっております. 当医療センターがコロナ禍に負けず,今後とも発展していくよう願いながら,来年度に は年報第5 号が発刊できるように,我々職員も一層精進していきたいと思います.読者 の皆様方におかれましては,引き続きご声援よろしくお願いいたします. 筑波技術大学保健科学部附属 東西医学統合医療センター年報 第4 号 〒305-8521 茨城県つくば市春日4-12-7 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター TEL:029-858-9590 (8:30~17:00) URL:http://www.k.tsukuba-tech.ac.jp/cl/ 2023 年10 月31 日発行 編集委員長 鮎澤 聡 編集委員 木村 健作,吉川 一樹,成島 朋美,櫻庭 陽 印刷 (株)イセブ